2026年5月14日
ベトナムのメディア・娯楽市場が大きな転換期を迎えている。Statistaの調査(2024年5月〜2025年7月)によると、ベトナムのSpotifyユーザーの83.1%が国内アーティストの楽曲を選択しており、この割合はアメリカ、日本、韓国を上回る世界トップ3に位置する。この強力なローカル志向を背景に、2025年には国内企業が獲得可能な市場規模が24億ドル(約60兆ドン)に達すると予測されている。 ※Statista:世界中の統計データ・市場調査・業界分析を提供する企業
【市場構造の変化と「ファン経済」の成熟】
・地産地消の加速: 視聴者が国内アーティストを優先することで、広告、著作権、コンサート、スポンサー料などの資金が国内エコシステム内に留まる好循環が生まれている。
・直接消費の拡大: Z世代やミレニアル世代を中心に、無料コンテンツから「体験」への投資へとシフトしている。コンサートチケットや関連グッズマーチャンダイズへの支出が増加しており、韓国型に近い「ファン経済(Fandom Economy)」が形成しつつある。
・独立系プロダクションの台頭: アーティスト自身が設立した独立系レーベルが、コンテンツ制作からファンコミュニティ管理までを主導し、多角的な収益化を実現している。
【主要企業の動向】
Yeah1 (YEG)
広大なメディアエコシステムを活用した「視聴トラフィックと広告収入」を軸としたモデルである。収益の約86%をメディア・広告活動が占めており、大規模なリアリティショーをフックに視聴データを集め、それを広告枠やブランドスポンサーシップへ転換することに長けている。2026年は、コンサート回数を絞る一方で、KOL/KOC(Key Opinion Leader/Key Opinion Consumer:インフルエンサー)のマネジメントやゲーム事業など、デジタルプラットフォーム上での多角的な収益化を強化する方針である。
DatVietVAC
「コンテンツIP(知的財産)と直接課金」に重きを置くモデルを展開している。同社はフォーマットの自社開発を推進しており、利益の80%をコンテンツ制作・流通部門から生み出している。特に「ファン経済」を巧みに利用し、コンサート、高額なアーティストグッズ、独占配信プラットフォームなど、ファンが直接支出するD2C(Direct to Consumer:消費者直接販売)チャネルでの収益力が圧倒的である。ROE(自己資本利益率)40.8%という極めて高い経営効率が、その優位性を裏付けている。
DatVietVACは、従来の放送枠販売から、ファンから直接収益を得る「D2C」モデルへの転換を強めている。知的財産を中核としたビジネスモデルは、銀行融資に頼らない資金調達手段としてIPOを視野に入れており、2030年には売上高5兆ドンを目指す構えである。
2026年5月13日
ベトナム株式市場における製薬セクターの上場大手企業は、現在、その多くが外資による支配下、あるいは戦略的出資を受ける状況にある。2026年5月初旬、中国のリゾン・ファーマシューティカル(Livzon)がイメックスファーム(IMP)の株式67.87%を取得したことは、国内の医薬品生産チェーンを国際資本が主導する傾向をさらに強めるものとなった。
【外資の参入状況と主要銘柄】
時価総額上位の企業を中心に、外資が筆頭株主として経営権を握るケースが目立っている。
。ハウジャン製薬 (DHG): 日本の大正製薬が2019年より51%以上の株式を保有。
・イメックスファーム (IMP): 中国のリゾン・グループが約6兆ドンの投じ、67.87%の株式を取得し買収。
・ハタイ製薬 (DHT): 日本のあすか製薬が保有比率を約40%まで引き上げ。
・その他: ドメスコ(DMC)は米アボットが51.7%、トラファコ(TRA)は韓国の連合(DaewoongおよびMirae Asset)が約40%を保有。また、ピメファルコ(PME)は2021年に独スタダ(STADA)が99.5%を取得し、上場廃止となった。
【M&Aの動向と背景】
外資がM&Aを推進する主な目的は、ベトナム国内の高度な生産拠点と流通ネットワークの確保である。
・生産規格: イメックスファームが保有する「EU-GMP(欧州医薬品正製造管理基準)」準拠の生産ラインなどは、病院向け入札市場(ETC)での競争力において極めて重要な資産となっている。
・市場の成長性: ベトナムの製薬市場は2015年の約40〜50億ドルから、2024〜2025年には80〜90億ドル規模に急拡大した。2032年には160億ドルに達すると予測されており、高い成長ポテンシャルが投資を誘致している。
【規制当局の対応】
M&Aによる企業結合後の市場独占を防止するため、国家競争委員会はリゾン・グループに対し、イメックスファームへの原料供給における差別的扱いの禁止や、定期的な技術移転の実施などを条件として課している。
2026年5月12日
ベトナム小売最大手の一角であるマサン・グループ(Masan Group)傘下のウィンコマース(WinCommerce)は、2026年度株主総会において、同年末までにコンビニエンスストア(CVS)事業へ参入することを明らかにした。サークルKやファミリーマートといった外資大手が赤字を計上する中での参入表明は、市場の注目を集めている。
【参入の背景と戦略的意図】
・小売エコシステムの完結: 現在、ウィンコマースはミニスーパー(WinMart+/WiNLife)とスーパーマーケット(WinMart)を展開しているが、深夜から早朝にかけての需要を取り込めていない。CVS参入により、24時間体制の顧客接点を確保し、消費者のライフサイクル全域をカバーする狙いがある。
・ドミナント戦略: 同社は2026年第1四半期時点で全国に4,817店舗を展開しており、小売チェーン運営の豊富なノウハウを持つ。かつての巨額赤字から黒字化を達成した実績を背景に、CVS事業も早期の収益化を目指す。
【ベトナムCVS市場の現状と課題】
・激しい競争と赤字: サークルK(520店超)、GS25(400店超)、ファミリーマート(約180店)、ミニストップ(約180店)などが競合している。税務当局の報告によれば、これらの大手チェーンの多くが2年連続で赤字を計上している。
・市場の断片化: タイやフィリピンではセブン-イレブンが圧倒的なシェアを誇るが、ベトナムでは規模別で5位に留まるなど、「市場の覇者」が不在の状態である。
・新たな脅威: 中国最大手の美宜佳(Meiyijia)が「Ohmee」ブランドでハノイに出店を開始するなど、新規参入も相次いでいる。
【今後の見通し】
ウィンコマースは2026年末に最初の試験店舗を開設し、その成果を2027年の株主総会で報告する予定である。また、苦戦していたカフェチェーン「フク・ロン(Phuc Long)」との統合についても、CVS併設型モデルとしての再挑戦が示唆されている。タイのセブン-イレブンのように「CVS+コーヒー」の形態でシェア拡大を図る可能性が高い。
2026年5月10日
2026年5月6日、ベトナム石油グループ(ペトロリメックス:PLX)は、スアンカウ・ホールディングス(Xuan Cau Holdings)およびセレックス・モータース(Selex Motors)と共同で、新会社「ベトナム・グリーンエネルギー・インフラ株式会社(VGX)」を設立すると発表した。これは、伝統的な石油販売から電動モビリティ向けのクリーンエネルギー供給へと事業構造を転換する戦略的な一歩である。
【出資構造と事業目的】
・資本金: VGXの資本金は1,000億ドン(約6億円)で、ペトロリメックスが350億ドン(35%)を出資する。
・主な事業内容: 電気自動車(EV)用充電サービス、電動バイク用バッテリー交換サービス、および関連する付随業務。
【戦略的展開とインフラの特徴】
・シェア型インフラの構築: 特定のメーカーに限定せず、バイクから自動車、物流車両まで多様な車種が共通利用できる「共用インフラ」の開発を目指す。これにより投資の重複を避け、リソースの最適化を図る。
・展開ロードマップ: まずはハノイやホーチミンなどの大都市圏や低排出規制区域を優先し、その後全国の主要幹線道路沿いへと拡大する計画である。
・給油所の多機能化: ペトロリメックスが保有する既存の給油所ネットワークを活用し、従来の燃料供給に加え、充電・バッテリー交換、屋根上太陽光発電などを備えた「複合エネルギー拠点」へと段階的に転換する。
【エネルギー安保と自律性】
ペトロリメックスのファム・ヴァン・タイン会長は、技術・ネットワーク・データの主導権を国内企業(民間企業との連携)で確保することの重要性を強調した。外資に依存しない国内資本主導のエネルギーインフラを構築することで、国家のエネルギー安全保障を強化する狙いがある。
2026年5月6日
ベトナム政府は、2026年7月1日付で施行される首相決定第21号を公布し、「戦略的技術リスト」および「戦略的技術製品リスト」を確定した。本リストには、半導体チップや次世代ネットワークに加え、高速鉄道および都市鉄道技術が新たに盛り込まれ、国家の長期的発展に向けた技術指針が明確化された。
【10の戦略的技術グループ】
政府が選定した戦略的技術は、以下の主要分野を網羅している。
1. デジタル技術: AI、ビッグデータ、デジタルツイン、クラウド、エッジコンピューティング、IoT、ブロックチェーン
2. 次世代モバイルネットワーク技術
3. ロボティクスおよびオートメーション
4. 先端バイオ・医用生体技術。
5. エネルギーおよび先端材料技術。
6. 半導体チップ技術。
7. サイバーセキュリティおよび量子技術。
8. 海洋および地下探査技術。
9. 航空宇宙技術。
10. 高速鉄道および都市鉄道技術。
【戦略的技術製品の分類】
リストでは、30の製品群を以下の2つのグループに分類している。
①グループ1(経済発展への直接的影響): ベトナム語の大規模言語モデル(LLM)、5G/5G-Advanced設備、産業用ロボット、ヒト用次世代ワクチン、水素製造・貯蔵システム、BESS(蓄電システム)など。
②グループ2(新たな成長動員および自立・国防): 専用チップ、量子コンピューティング、レアアース・鉱物の深加工システム、小型モジュール炉(SMR)、低軌道衛星、高速鉄道建設工事、高速鉄道・都市鉄道の統合システムおよび車両など。
科学技術省は各省庁と連携し、各段階の経済社会情勢に基づき、本リストの定期的な評価・見直しを行う。必要に応じて首相に更新案を提出し、技術ロードマップの最適化を図る。
※編集部註:「戦略的技術グループ」とは、ベトナムの国家安全保障・産業高度化・デジタル主権・輸出競争力に直結する重点技術分野を政府が公式に指定したリストです。ベトナム政府は、この分野に対して研究開発投資、人材育成、税優遇、国家プロジェクト、国産化支援などを集中投入する方針です。
2026年4月27日
モバイル・ワールド(ベトナム最大手の小売企業)傘下の生鮮食品・日用品チェーンであるバクホアサイン(Bách Hóa Xanh)は、2026年第1四半期に黒字化を達成した。現在、1日平均4.4店舗という驚異的なペースで新規出店を進めており、通年での大幅な利益貢献が期待されている。
【財務実績:赤字脱却と収益性向上】
・黒字化の達成: 2026年第1四半期の売上高は約13兆1,000億ドン(前年同期比19%増)を記録した。長年の課題であった利益面においても、同期で黒字を計上し、過去の累計赤字の解消に向けた大きな一歩を踏み出した。
・店舗レベルの収益: 第1四半期に新設された280店舗(北部18%、中部14%を含む)は、開店初月から店舗レベルでの営業利益がプラスとなっている。
【拡大戦略:北部進出と市場開拓】
・出店加速: 2026年4月以降、わずか数週間で120店舗を新設している。大手都市における非正規市場(違法市場や臨時市場)の整理・削減が進む中、同社は2026年から年間1,000店舗の新規出店を計画している。
・通年目標: 2026年度、バクホアサインはMWG連結売上高の30%(約55兆5,000億ドン)、連結利益の約20%(約1兆8,000億ドン)を占める主力事業となる見通しである。
【将来の展望:IPOに向けたロードマップ】
ファム・ヴァン・チョンCEOは、現在の優先事項はベトナム国内市場(市場規模約600億ドル)に全力を注ぐことであり、海外進出よりも国内シェア拡大を重視すると明言した。
上場計画: 2026年を将来の独立上場に向けた「極めて重要な年」と位置づけ、2028年の新規株式公開(IPO)を目指す。そのためには、成長を維持しつつ過去の累積損失を早期に相殺することが不可欠な条件となる。
2026年4月24日
モードル・インテリジェンス(市場調査会社)が発表した2026年第1四半期のベトナム配車サービス市場レポートによると、グリーンSM(Green SM:旧名称 Xanh SM)がシェア54.51%を記録し、首位の座を維持した。これにより、同社は18ヶ月連続で市場トップを独走している。
【市場シェアと競合状況】
第1四半期における主要3社のシェア動向は以下の通りである。
・グリーンSM: 54.51%(首位を堅持し、競合との差を拡大)
・グラブ(Grab): 40.92%
・ビー(be): 4.57% グリーンSMはシェアに加え、サービス品質、ネットワークの網羅性、1日あたりの平均売上高においても最も高い評価を得ている。
【市場規模と電動化の進展】
ベトナムの4輪配車市場は堅調な成長を続けている。
・取引総額(GMV): 第1四半期で5億8,071万ドルに達し、総乗車回数は1億5,326万回を数えた。
・車両の電動化: 特筆すべき点として、全取引額の58.34%が電気自動車(EV)およびハイブリッド車(HEV)によるものであり、市場のクリーンエネルギーへの移行が顕著となっている。
【グローバル展開とブランド戦略】
グリーンSMを運営するGSM(GSM:ファム・ニャット・ブオン氏が設立した電気自動車による移動・通信サービス提供企業)は、2026年4月13日にブランド名を「Xanh SM」から「Green SM」へ変更し、グローバル展開に向けたブランドイメージの統一を図った。また、同社はインドネシアやフィリピンといった国際市場においても、シェアリングエコノミーモデルの展開を加速させている。
2026年4月20日
2026年4月18日、ホーチミン市人民評議会は、Build-Transfer方式(建設後譲渡方式)によるインフラ整備プロジェクトの投資家へ支払うための用地リストに関する決議案を採択した。現在、同市では総額366兆ドン(約2兆2,000億円)を超える大規模なインフラ案件が提案されており、その中でも環境汚染解決の鍵を握る3つの巨大下水処理場の建設が注目を集めている。
3つの下水処理プロジェクトと投資連合 環境インフラ分野において、西サイゴン下水処理場、北サイゴン1下水処理場および北サイゴン2下水処理場の3プロジェクトが提案されている。これらの投資案は、以下の3社によるコンソーシアム(連合体)から出されるものである。
・ペトロセトコ(Petrosetco:ベトナム石油ガスグループ傘下で、流通、物流、不動産管理など多角的なサービスを展開する企業)。
・ジェレックス・インフラ(Gelex Infra:電力インフラ、工業団地、上水道などの基盤整備を専門とするゲレックス・グループの中核子会社)。
・ヴィコンシップ(Viconship:ベトナムコンテナ総公社関連のインフラ・不動産開発部門)。
【投資規模と事業計画 】
3つのプロジェクトの総投資額は約36兆7,000億ドン(約2,200億円)に上り、合計処理能力は日量64万立方メートルに達する。これはホーチミン市全体の下水処理需要の約30%をカバーする規模である。
ペトロセットコは、2026年4月24日の株主総会において、これら3つの連合体への計2兆2,000億ドンの出資計画を承認する予定である。また、ジェレックス・グループのグエン・ヴァン・トゥアン会長は、上水および下水処理をグループの重点的なインフラ戦略と位置づけている。
【BT方式と用地による支払いメカニズム】
ホーチミン市は予算の制約がある中、民間資本を活用するためBT方式を採用している。投資家への支払いには、レ・ズアン通り8-12番地やハイバーチュン通り2-4-6番地といった、1区(旧区画)の中心部にある「一等地」を含む計33箇所の用地が充てられる予定である。これにより、土地資源を活性化させると同時に、環境汚染や洪水、渋滞といった都市の喫緊の課題解決を図る。
豊富な経験と財務能力を持つ投資家連合の参入により、ホーチミン市の下水処理インフラは大きく前進することが期待される。今後は、資産価値と投資額の整合性を保ちながら、透明性の高い手続きを経てプロジェクトを推進することが重要となる。