2026年8月24日
ベトナム電力局と国際エネルギー団体は、再生可能エネルギーの導入拡大、電力網の近代化、技術力強化に向けた協力覚書を締結した。急増する電力需要に対応し、安定供給と2050年のネットゼロ達成を両立させる方針である。
1.過去最高の電力需要と送電制約
2026年6月末の猛暑時、全国の最大電力需要は5万8,000MWを超えた。冷房需要の急増で送電網への負荷が高まる一方、送電容量の不足により、日中には太陽光・風力発電の出力制御が発生し、夕方の需要ピーク時には供給力が不足するという課題がある。
2.2030年までに蓄電容量16.3GWを目指す
両者は、技術協力、調査研究、人材育成、知識共有を進める。重点分野は以下の通りである。
・蓄電池システム(BESS:Battery Energy Storage System)の導入促進
・送電網の近代化・デジタル化
・再生可能エネルギーの系統統合
・直接電力購入契約の運用基盤整備
・公正で包括的なエネルギー転換
電力開発計画に基づき、2030年までにBESSを最大16.3GWへ拡大する。日中の余剰電力を蓄え、需要ピーク時に供給することで、出力制御と系統混雑を抑える狙いである。
3.AIで電力網の運用を最適化
人工知能(AI)を用いて電力需要をリアルタイムで予測し、蓄電池の充放電や送電配分を最適化する。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、AIは再生可能エネルギーの予測誤差を最大45%削減し、系統障害の継続時間を30~50%短縮できる。今後は制度整備と技術導入を並行して進め、電力供給の安定性とエネルギー安全保障を強化する必要がある。
2026年8月22日
8月20日にホーチミン市で開催された「Vietnam Cloud & Datacenter Convention 2026」では、AI、データ主権、法令遵守を踏まえたクラウド戦略が議論された。
1.単一クラウドから用途別配置へ
ベトナムIT大手であるVNPT-IT傘下VNPT Cloudのクラウドソリューション担当、コイ・フン氏は、「重要なのは、どのクラウドが最良かではなく、どのワークロードをどこに配置するかである」と述べた。
企業はシステムごとに、処理データの種類、性能、遅延、拡張性、法的要件、アクセス権限、障害許容度、移行可能性、総コストを評価する必要がある。
2.三つの環境を組み合わせ
コイ・フン氏によると、各クラウドの主な用途は次のとおりである。
・大規模パブリッククラウド:迅速な拡張や新技術の利用
・主権クラウド:機密データ、国内保存、データ主権への対応
・ハイブリッドクラウド:複数クラウドと既存システムの接続
これらは競合する選択肢ではなく、業務要件に応じて組み合わせる構成要素である。
3.国内クラウド事業者の新たな役割
海外事業者がベトナム国内でインフラを拡大するにつれ、通信遅延やデータ保存場所に関する国内外事業者の差は縮小するとみられる。
VNPT Cloudは、国内事業者の競争力として、ベトナムの法制度・事業環境への理解、現地での技術支援、既存システムとの統合能力を挙げている。国内事業者の役割は、サーバーや通信回線の提供から、企業のインフラ全体を設計・統合する支援へ移行するとの見方である。
4.クラウドはインフラ構成の設計課題へ
企業は単一のクラウドに依存する方式から、業務別の「ワークロードマップ」を作成する方式へ移りつつある。データ保護、法令、性能、運用コストを基準にシステムを分類し、それぞれを適切な環境へ配置する考え方である。
一方、複数のクラウドを同時に利用するには、アーキテクチャ設計、システム統合、セキュリティ、運用管理の高度化が必要となる。今後はクラウドサービス単体の性能だけでなく、複数環境を一体的に設計・管理する能力が企業の重要課題になると考えられる。
2026年8月18日
ベトナム南部の産業用不動産市場は、安定した稼働率を維持しながら、ホーチミン市、ドンナイ省、タイニン省が異なる機能を担う成長段階に入った。今後は面積の拡大だけでなく、インフラ、施設品質、ESG基準、開発速度が競争力を左右する見通しである。 ※ESG基準:企業の「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に配慮した取り組みを第三者機関が評価することで算出される指標。
1.地域ごとの役割が明確化
・ホーチミン市:整備された物流網と市場アクセスを生かし、高付加価値産業を誘致する中心地。
・ドンナイ省:広い用地と交通利便性を備え、インフラの品質向上を進める地域。
・タイニン省:低い土地・賃貸コストと豊富な用地を強みに、新規投資や越境物流を取り込む地域。
ロンタイン国際空港、環状3号線、ドンナイ―ホーチミン間の水運回廊は、今後2~3年間で地域間の接続性を高めるとみられる。
2.供給拡大に向けた準備が進展
2026年6月末時点の産業用地供給は3万6,063ヘクタールで、前年同期比4.6%増となった。ただし、新規案件は計画策定、投資手続き、インフラ整備の段階にあり、市場投入は予想より遅れている。
各地域では将来供給の準備が進んでいる。
・ドンナイ省:主要工業団地3カ所、計2,240ヘクタール
・タイニン省:工業団地49カ所、約1万6,000ヘクタール
・ホーチミン市:新規工業団地14カ所、3,833ヘクタール
中心部の用地不足を背景に、外国企業の生産拡大需要はドンナイ省とタイニン省へ移りつつある。
3.完成済み工場は品質重視へ
南部の完成済み賃貸工場の供給面積は685万平方メートルに達した。電子、半導体、物流などの高付加価値分野からの外国直接投資が、需要を支えている。
2026~2028年には約110万平方メートルの面積が追加される見込みで、内訳はホーチミン市65%、タイニン省29%、ドンナイ省6%である。市場は量的拡大から、設備品質、ESG基準、迅速な供給を重視する段階へ移行している。
4.水運が新たな成長要因
2026年末に着工予定の南部内陸水運回廊開発は、輸送費と道路渋滞の軽減につながる。特にドンナイ省の河川沿い倉庫の競争力を高め、ホーチミン市の物流拠点機能を強化する可能性がある。
タイニン省では地域連携と国境貿易の拡大により、中長期的な倉庫需要が見込まれる。三地域の機能分担と交通インフラの連携が、2026~2028年の南部産業市場を支える構造である。
2026年8月17日
ベトナムがAI分野で自立性を確保するには、半導体や大規模言語モデルだけでなく、安定的かつ持続可能な電力供給体制の構築が不可欠である。AI主権は、実質的にエネルギー主権から始まる。
1.AIを支えるのは巨大な電力インフラ
ベトナムが米国や中国と、汎用AIモデルの開発規模や先端半導体の供給網で競争することは容易ではない。一方、エネルギー分野では主体的な戦略を構築できる。AIは仮想的な「クラウド」だけに存在するものではなく、データセンター内の物理的な計算設備で稼働する。大量の演算処理と24時間体制の冷却には、安定した電力が必要である。
ベトナムでは現在、41カ所のデータセンターが稼働し、総設備容量は約221MWに達する。今後の大型施設の建設により、電力需要はさらに増える見通しである。重要なのは発電量だけでなく、停電や変動のない電力を継続的に供給できるかどうかである。
2.海洋資源でAI設備を冷却
熱帯気候のベトナムでは、データセンターの冷却が大きな課題である。冷却設備は施設全体の電力消費量の30~40%を占める場合があり、運用コストを押し上げる。
長い海岸線を活用し、次の技術を検討する必要がある。
・海水を利用した冷却システム
・海底データセンター
・洋上風力発電との直接連携
海底データセンターはすでに海外で商用化されており、洋上風力と組み合わせる事例もある。ベトナムでも単一の電源に依存せず、洋上風力、原子力、小型モジュール炉などを組み合わせた電源構成が求められる。
3.「海外企業のサーバー置き場」を避ける
目標は、外国企業向けに設備を貸し出すだけの拠点になることではない。データセンターを国内の研究、人材育成、産業応用と結び付け、自国の技術力に転換する必要がある。
そのための優先課題は以下の三点である。
・安定的で適正価格の電力を国家AI戦略の中核に位置付ける。
・沿岸地域で電源、データセンター、光ファイバーを一体的に整備する。
・海外投資を選別し、国内人材の育成、研究開発、AI活用への貢献を条件とする。
ベトナムのAI主権は、強固な電力網と、それを国内の技術力へ転換する政策にかかっている。
2026年8月17日
企業の最新発表および財務報告データ(2026年8月時点)によると、ベトナムの主要22企業・グループによる雇用規模は推計122万人超に達した。不動産、エネルギー、IT、小売、金融、インフラなど多様なセクターが雇用市場を支えている。
1. 基幹産業と民間大手:雇用を支える2大柱
雇用規模の上位には、急成長を遂げる民間コングロマリットと、全国に広大な事業網を持つ国営インフラ・資源企業が名を連ねている。
・コングロマリット:ビングループの国内エコシステム全体(関連会社を含む)で23万人を雇用し首位。不動産や電気自動車事業に加え、インフラ、交通、エネルギー分野への拡張に伴い、グループ単体の雇用数も大幅に増加している。
・国営エネルギー・資源・製造大手: ベトナム電力公社が約9万7,000人、ベトナム石炭鉱物産業グループが約9万4,900人、ベトナムゴム総公社が約7万5,900人、ベトナム石油ガスグループが約6万人を抱える。また、労働集約型産業である繊維・衣料公社も5万3,800人超の雇用を維持している。
2. IT・通信・小売:デジタル化と消費拡大による人員増強
デジタル化と消費市場の拡大を背景に、IT・通信および小売関連企業では積極的な人員増強の傾向が見られる。
・IT・通信: FPTが小売・通信子会社を含め8万100人超を雇用。軍隊工業通信グループが約5万5,000人、ベトナム郵便通信グループが約3万5,000人規模となっている。
・小売・消費財: モバイル・ワールドが約6万7,300人(前年末比約4%増)、マサングループが約4万3,000人(同6.6%増)と、店舗網や新規事業の拡大に伴い人員増強の傾向が顕著である。
3. 金融・インフラ・FDI企業:安定雇用と大規模製造の役割
安定した雇用を維持する金融・公共インフラ分野に加え、大規模な製造拠点を持つ外資系企業もベトナムの労働市場において極めて重要な役割を果たしている。
・銀行セクター: ベトナム農業農村開発銀行(AGRIBANK、約4万1,800人)を筆頭に、ベトナム繁栄商業銀行(VPBANK)、ベトナム投資開発銀行(BIDV)、ベトナム工商銀行(VIETINBANK)、ベトナム外国貿易銀行(VIETCOMBANK)がいずれも2万人以上の雇用を維持。人員変動率は1〜3%程度と相対的に安定している。
・インフラ・運輸: ベトナム航空(約2万3,700人)、ベトナム鉄道総公社(約2万2,200人)、ベトナム郵便公社(約2万800人)が全国的なネットワークを背景に大規模雇用を支える。
・FDI(外資)企業: フアリ(Huali、約16万9,000人)、フォックスコン(Foxconn)、ポーチェン(Pou Chen)など、10万人規模の雇用を抱える外資系製造大手もベトナムの労働市場で大きな存在感を示している。
2026年8月14日
2026年8月13日、ベトナム国家イノベーションセンターにて開催されたパネルディスカッションにおいて、日系製造自動化企業および大学・地元企業の幹部らがベトナムにおける高度技術投資の誘致戦略について意見を交わした。
1. 研究開発(R&D)機能のベトナム移転と製造構造の変化
自動化大手メイコー・ハイテックのグエン・ヴァン・トゥアン社長は、ベトナムにおけるR&Dと製造の役割分担に大きな変化が生じていると指摘した。
・R&Dの現地化: 従来は「海外で研究、ベトナムで製造」という構造であったが、現在は研究開発機能をベトナムへ移転し、日越のエンジニアが共同で製品開発を行う事例が増加している。
・製品開発の逆流現象: ベトナム国内で研究開発・試作された優れた製品が、日本や中国の工場へ展開・生産されるケースも出現している。
・スマートファクトリー展開: 自動化機器、スマート倉庫、IoT、AI搭載監視カメラ、製造実行システムなどのソリューション開発が進む。
2. 技術人材の育成と日越企業の補完関係
R&D機能のシフトに伴い、求められる人材像や協力体制について各幹部から提言がなされた。
・ハード・ソフトの強み融合(Viettel Software・ブイ・フン・ヴィエット CTO): ベトナム側は優秀なAI・ソフトウェア開発エンジニアを擁する一方、日本企業はハードウェア、データセンター、計算能力に強みを持つ。両者の協業により、日本市場向けAIプラットフォームやソフトウェアツール等の共同開発が可能となる。
・産学連携による教育再構築(日越大学・グエン・ホアン・アイン 学長): 半導体などの高度技術分野において、大学の教育プログラム策定段階から日本・韓国・台湾などの企業のニーズを反映させることが不可欠である。単なるエンジニアの増員にとどまらず、実際のプロジェクトに参加できる環境整備が必要とされる。
3. コスト優位性からエコシステム主導への転換
前出のトゥアン氏は、今後の高度技術投資の誘致において、ベトナムの優位性は「低コスト労働力」から「人材、R&D、企業、教育が連動したエコシステム」へと移行しつつあると強調した。
AI、ドローン、半導体といった抽象的な方針にとどまらず、明確な目標とロードマップを持った具体的プロジェクトの実施が、単なる製造から技術バリューチェーンへ、より深い参画への転換を加速させる。
2026年8月12日
半導体が戦略的競争分野となる中、フランスにあるファーウェイ研究センターのグエン・ヴァン・ミン無線・AI計算研究部門長は、フランスの半導体戦略とベトナムへの示唆について見解を述べた。
1. フランスの戦略:特定分野における「戦略的自主性」
フランスおよびEUの目標は、半導体バリューチェーン全体の自給自足ではなく、重要領域における「戦略的自主性」の確立である。最先端の製造プロセスすべてで直接競合するのではなく、以下の自国の産業的強みに特化している。
・優先領域: 産業用半導体、省電力チップ、車載・エネルギー・通信向けの高信頼性システム。
・後工程・パッケージング技術: チップレットや先端パッケージング技術、特にAI計算においては、単なる計算能力だけでなく、省エネ性能、メモリ帯域幅、データ伝送能力、チップ構造・パッケージング・システム最適化の組み合わせが極めて重要となる。
2. ベトナム半導体産業への示唆とロードマップ
ベトナムは3nmや2nmといった最先端プロセスのみに固執せず、実質的なニーズに応じたアプローチをとる必要がある。
・段階的なロードマップ: 材料・ウェハ・サプライチェーンの育成→ テスト・先端パッケージング・チップレット技術→ 28nm/20nmなどの汎用プロセスでの製造→ 産業・車載・IoT・エッジAI向けチップの開発。
・AIと半導体の融合: AIアクセラレータや高効率計算、省電力チップ、エッジAI、次世代通信向けAI領域において、アルゴリズム・ソフトウェア・ハードウェア設計を組み合わせた独自の強みを構築する。
・人材育成: アルゴリズム層(AI・信号処理・通信アルゴリズムと最適化)、ハードウェア設計層(ASIC・回路設計・検証)、製造・パッケージング・テスト層のバリューチェーン全体を見据えた人材育成が不可欠である。
3. 仏越協力とエコシステム構築
ベトナム国家イノベーションセンターとダッソー・システムズの連携など、産業デジタル変革、デジタルツインや製品ライフサイクル管理における協力が進んでいるが、これらは産業支援基盤であり、チップ設計やAIアクセラレータ開発といった半導体のコア技術そのものではない。したがって、産業高度化プログラムと並行して半導体専用の協力枠組みを構築する必要がある。
2026年8月11日
ベトナム政府は、国有企業における国有資本の再編を加速させている。産業および企業の戦略的重要性に応じて「100%」、「65%以上」、「50%超〜65%未満」の3つの国有資本保有比率基準が新たに設定された。(首相決定第40/2026/QĐ-TTg号、2026年8月5日発効)
本枠組みは、根幹分野へ国有資本を集中させるとともに、その他の分野での民間参入や資本引き上げを推進することを目的としている。
1. 産業別の国有資本保有基準
・100%保有: 必須公共サービス、自然独占(1社供給が効率的な産業)、ハイテク、科学技術、イノベーション・DX、インフラ案件(交通・水利・エネルギー・デジタル)。
・65%以上保有: 空港管理・運航、航空輸送、重要港湾運営、大規模鉱物採掘、金融・銀行、機械工学、上下水道。
・50%超〜65%未満保有: 通信インフラ、鉱物探査、市場シェア30%以上の燃料輸入・セメント製造など。
※多部門展開企業においては、再編計画承認前3年間の売上高または生産高で最大割合を占める部門の基準が適用される。
2. 影響を受ける主要国有企業
・ペトロリメックス: 国有比率基準が「50%超〜65%未満」となるため、現在約75.8%を保有する政府は約11%の株式を売却する可能性がある。
・ベトナム空港公社: 「65%以上」が基準となるため、現在95.4%を保有する財務省からの追加売却が検討される可能性がある。
・その他: Dam Phu My(ペトロベトナム傘下の肥料会社、同社が約59.5%保有)やDAP-Vinachem(ベトナム化学グループ傘下企業、Vinachemが約64%保有)なども国有比率の見直し対象となる見込み。
3. 実施スケジュールと今後の見通し
政府は、Viettel、Vietcombank、VietinBank、BIDV(通信最大手1社、主要国有銀行3行)を除く19の主要国有グループ・公社に対し、8月12日までに財務省へ再編案を提出するよう命じた。
各省庁および地方自治体は8月31日までに5カ年再編計画を承認する必要がある。BIDV傘下の証券会社の分析によると、今回の見直しにより2016〜2018年同様のダイベストメント(保有資産・株式の売却)の波が到来し、株式市場への株式供給量が増加すると予想されている。