2026年8月30日
ベトナムでは都市鉄道とTOD(公共交通指向型開発)の整備が進み、住宅の評価基準は、購入価格や中心部までの距離だけでなく、移動時間と交通費を含む「生活の総コスト」へ広がりつつある。ただし、メトロ付近の全物件が同様に恩恵を受けるわけではない。※TOD: Transit- Oriented Development
1.大都市圏で鉄道網を拡張
ハノイでは約18路線、総延長約979キロの都市鉄道網を計画している。既存路線に加え、ニョン―ハノイ駅線は2027年12月の全線開業を予定し、新たな5路線も2030年までの基本完成を目指す。
ホーチミン市と周辺地域では約28路線、約1,100キロを計画する。1号線は開業済みで、2号線は着工している。2026年末までには計約138.8キロの4事業も着工予定である。
高速鉄道では、ハノイ―クアンニン線とベンタイン―カンゾー線が2028年末の運行開始を予定している。
2.物理的な近さだけでは不十分
TODの効果を決めるのは、駅までの距離ではなく、実際の移動のしやすさである。物件が駅から500メートルでも、歩道、横断設備、バス接続が不足すれば利便性は限定される。
評価には次の要素が重要である。
・駅への徒歩アクセス
・バスなど他の交通手段との接続
・周辺の雇用、学校、商業、生活サービス
・毎日の移動経路との適合性
・都市空間と歩行環境の質
3.郊外住宅に選択肢が拡大
公共交通の利用により燃料代、駐車料金、車両維持費などを月400万ドン(約2万4,000円)削減できる場合、節約額は10年間で4億8,000万ドン(約285万円)、20年間で9億6,000万ドン(約570万円)となる。さらに通勤時間の短縮は、仕事、家族、休息に使える時間を増やす。
このため、住宅価格が比較的低く、メトロとの接続性が高い郊外・衛星都市は、初回購入者や予算の限られた世帯の選択肢となり得る。
4.将来価値の先取りには注意
メトロの効果は、開業時期、接続性、周辺サービス、実際の移動需要によって異なる。「駅近」や「TOD予定」だけで価格上昇を判断すべきではない。特に未完成・計画段階の路線では、将来のインフラ価値が現在価格へ過度に上乗せされていないか確認する必要がある。
※円換算額は、2026年8月31日の提示売却レート(1円=168.55ドン)に基づく概算である。
2026年8月28日
ベトナム北部のフンイエン省は、大規模な工業団地計画、物流網、高度人材へのアクセスを基盤に、ハイテク産業と高付加価値型の外国直接投資(FDI)の誘致を進めている。
1.国内最大規模の工業用地を計画
省計画では、計9,588.63ヘクタールの工業団地30カ所を整備し、2030年以降にさらに5カ所、2,460ヘクタールを追加する方針である。
2021~2030年(2050年までのビジョンを含む)の省・市計画案によると、将来の工業用地は計1万5,798ヘクタールで、全国最大となる見通しである。計画が実施されれば、生産拠点の拡大と国際的なサプライチェーンへの参入が進む可能性がある。
2.物流、人材、投資選別が基盤
フンイエン省はハノイ南東部に位置し、ハノイ―ハイフォン高速道路、国道5号線、環状4号線を通じて、ラックフェン国際港やノイバイ国際空港へ接続できる。
また、低廉な労働力への依存から脱却し、半導体、ハイテク、精密製造などを優先する方針である。行政手続きの改善、ESG(環境・社会・企業統治)基準の導入、自由経済区構想も進めている。
ハノイに近いため、地元の技術労働者に加え、専門家や技術者を確保しやすい点も特徴である。
3.工業団地は複合型へ移行
新規工業団地では、賃貸用地、完成済み工場、倉庫、保税倉庫などを一体的に整備する動きがある。専門家・労働者向け住宅、サービス施設、緑地などを併設し、企業の操業と人材定着を支援する構想である。
今後の競争力は、工業用地の規模だけでなく、交通インフラ、環境対応、人材供給、運営効率を備えた持続可能な生産環境を構築できるかに左右される。
2026年8月24日
ベトナム電力局と国際エネルギー団体は、再生可能エネルギーの導入拡大、電力網の近代化、技術力強化に向けた協力覚書を締結した。急増する電力需要に対応し、安定供給と2050年のネットゼロ達成を両立させる方針である。
1.過去最高の電力需要と送電制約
2026年6月末の猛暑時、全国の最大電力需要は5万8,000MWを超えた。冷房需要の急増で送電網への負荷が高まる一方、送電容量の不足により、日中には太陽光・風力発電の出力制御が発生し、夕方の需要ピーク時には供給力が不足するという課題がある。
2.2030年までに蓄電容量16.3GWを目指す
両者は、技術協力、調査研究、人材育成、知識共有を進める。重点分野は以下の通りである。
・蓄電池システム(BESS:Battery Energy Storage System)の導入促進
・送電網の近代化・デジタル化
・再生可能エネルギーの系統統合
・直接電力購入契約の運用基盤整備
・公正で包括的なエネルギー転換
電力開発計画に基づき、2030年までにBESSを最大16.3GWへ拡大する。日中の余剰電力を蓄え、需要ピーク時に供給することで、出力制御と系統混雑を抑える狙いである。
3.AIで電力網の運用を最適化
人工知能(AI)を用いて電力需要をリアルタイムで予測し、蓄電池の充放電や送電配分を最適化する。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、AIは再生可能エネルギーの予測誤差を最大45%削減し、系統障害の継続時間を30~50%短縮できる。今後は制度整備と技術導入を並行して進め、電力供給の安定性とエネルギー安全保障を強化する必要がある。
2026年8月22日
8月20日にホーチミン市で開催された「Vietnam Cloud & Datacenter Convention 2026」では、AI、データ主権、法令遵守を踏まえたクラウド戦略が議論された。
1.単一クラウドから用途別配置へ
ベトナムIT大手であるVNPT-IT傘下VNPT Cloudのクラウドソリューション担当、コイ・フン氏は、「重要なのは、どのクラウドが最良かではなく、どのワークロードをどこに配置するかである」と述べた。
企業はシステムごとに、処理データの種類、性能、遅延、拡張性、法的要件、アクセス権限、障害許容度、移行可能性、総コストを評価する必要がある。
2.三つの環境を組み合わせ
コイ・フン氏によると、各クラウドの主な用途は次のとおりである。
・大規模パブリッククラウド:迅速な拡張や新技術の利用
・主権クラウド:機密データ、国内保存、データ主権への対応
・ハイブリッドクラウド:複数クラウドと既存システムの接続
これらは競合する選択肢ではなく、業務要件に応じて組み合わせる構成要素である。
3.国内クラウド事業者の新たな役割
海外事業者がベトナム国内でインフラを拡大するにつれ、通信遅延やデータ保存場所に関する国内外事業者の差は縮小するとみられる。
VNPT Cloudは、国内事業者の競争力として、ベトナムの法制度・事業環境への理解、現地での技術支援、既存システムとの統合能力を挙げている。国内事業者の役割は、サーバーや通信回線の提供から、企業のインフラ全体を設計・統合する支援へ移行するとの見方である。
4.クラウドはインフラ構成の設計課題へ
企業は単一のクラウドに依存する方式から、業務別の「ワークロードマップ」を作成する方式へ移りつつある。データ保護、法令、性能、運用コストを基準にシステムを分類し、それぞれを適切な環境へ配置する考え方である。
一方、複数のクラウドを同時に利用するには、アーキテクチャ設計、システム統合、セキュリティ、運用管理の高度化が必要となる。今後はクラウドサービス単体の性能だけでなく、複数環境を一体的に設計・管理する能力が企業の重要課題になると考えられる。
2026年8月17日
ベトナムがAI分野で自立性を確保するには、半導体や大規模言語モデルだけでなく、安定的かつ持続可能な電力供給体制の構築が不可欠である。AI主権は、実質的にエネルギー主権から始まる。
1.AIを支えるのは巨大な電力インフラ
ベトナムが米国や中国と、汎用AIモデルの開発規模や先端半導体の供給網で競争することは容易ではない。一方、エネルギー分野では主体的な戦略を構築できる。AIは仮想的な「クラウド」だけに存在するものではなく、データセンター内の物理的な計算設備で稼働する。大量の演算処理と24時間体制の冷却には、安定した電力が必要である。
ベトナムでは現在、41カ所のデータセンターが稼働し、総設備容量は約221MWに達する。今後の大型施設の建設により、電力需要はさらに増える見通しである。重要なのは発電量だけでなく、停電や変動のない電力を継続的に供給できるかどうかである。
2.海洋資源でAI設備を冷却
熱帯気候のベトナムでは、データセンターの冷却が大きな課題である。冷却設備は施設全体の電力消費量の30~40%を占める場合があり、運用コストを押し上げる。
長い海岸線を活用し、次の技術を検討する必要がある。
・海水を利用した冷却システム
・海底データセンター
・洋上風力発電との直接連携
海底データセンターはすでに海外で商用化されており、洋上風力と組み合わせる事例もある。ベトナムでも単一の電源に依存せず、洋上風力、原子力、小型モジュール炉などを組み合わせた電源構成が求められる。
3.「海外企業のサーバー置き場」を避ける
目標は、外国企業向けに設備を貸し出すだけの拠点になることではない。データセンターを国内の研究、人材育成、産業応用と結び付け、自国の技術力に転換する必要がある。
そのための優先課題は以下の三点である。
・安定的で適正価格の電力を国家AI戦略の中核に位置付ける。
・沿岸地域で電源、データセンター、光ファイバーを一体的に整備する。
・海外投資を選別し、国内人材の育成、研究開発、AI活用への貢献を条件とする。
ベトナムのAI主権は、強固な電力網と、それを国内の技術力へ転換する政策にかかっている。
2026年8月2日
ベトナムの主要都市(ハノイ、ホーチミン、ダナン)において、ピングループ、BRG、タイホールディングス、サングループ等の大手不動産デベロッパーによる高さ500m超の超高層ビル建設構想が相次いで浮上している。現在国内最高(461.2m)の「ランドマーク81」を超えるプロジェクトが計画されており、総投資額は数百億米ドル規模に達する。
1. ハノイ市内の主要プロジェクト
● Hanoi Twin Towers 99(568m・99階): タイホールディングス、キムリエン観光、タイソン(ピングループ傘下)による連合体が提案。投資額約30億〜35億米ドル(約4,557億〜5,316億円)。敷地面積34,936m²、地上99階・地下6階、延床面積約880,000m²の複合施設で、世界最高のツインタワー(568m)を目指す。2026年9月着工、2030年第3〜第4四半期完成を予定。
● Smart City Financial Tower(639m・108階): BRGグループと住友商事の合弁事業「ハノイ北部スマートシティ」(総投資額42億米ドル / 約6,380億円)の中核施設。ドンアイン県に位置し、完成すれば東南アジア最高峰級となる予定で、2025年8月に着工済み。
2. ホーチミン市およびダナン市の主要プロジェクト
● Vinhomes Green Paradise 108階タワー(ホーチミン市): カンゾー区の海上埋立都市開発(総投資額110億米ドル / 約1兆6,710億円)内に建設される108階建てタワー。概算投資額は約10億米ドル(約1,519億円)で、2025年4月に着工済み。
● トゥーティエム国際金融タワー(99階・ホーチミン市): ソヴィコ・HDBank連合体が99階建て複合タワー(投資額約18.4億米ドル / 約2,795億円)を提案。また、REE・HFIC・ヴィナキャピタル連合体も同地区で99階建てタワー(約11.5億米ドル / 約1,747億円)の検討を申請している。
● Empire 88 Tower(88階・ホーチミン市): エンパイア・シティ合弁会社(ティエンフオーク、チャンタイ、ケッペル、ゴー・キャピタル)による14.5haの複合開発計画(総投資額約12億米ドル / 約1,823億円)。一部住宅街区は完成済みで、行政手続きの完了後に88階建てタワーの建設に着手する予定。
● Da Nang Downtown Tower(408m・69階・ダナン市): サングループが2025年8月に着工した「ダナン・ダウンタウン」(総投資額約80兆ドン / 約4,589億円)内に建設される複合タワー。中部で最高、国内第2位の高さとなる予定。
※注:ベトコムバンク公表の販売レート「1 USD = 26,480.00 VND」、「1 JPY = 174.31 VND」に基づいて算出
2026年7月30日
米原子力サービス大手「エクセル・サービス・コーポレーション」が、ベトナムでの原子力発電開発を支援するため、現地法人「エクセル・サービス・ベトナム」を設立した。ハノイとホーチミンに拠点を置き、同国の原子力エネルギー分野への参入を図る。ベトナムにおける原子力協力は、ロシアや韓国が先行して協定・覚書を締結しており、米系企業の進出により国際協力をめぐる動きが加速している。
1. 米エクセル・サービス社のベトナム進出
エクセル社はベトナム国家イノベーションセンターおよびホーチミン工科大学との間で覚書を締結した。政府機関や企業パートナーとの更なる協力合意に向けた調整も進めている。
● 事業目的と技術方針: ハイテク産業の連続運転需要に対応するため、小型モジュール炉や統合型エネルギーシステムなどの次世代エネルギーソリューションの研究・開発を進める。ベトナムの状況に合わせた技術移転と運用ノウハウの提供を目指す。
● 現地法人の概要: 2026年7月7日に資本金5,000万ドンで設立された。最高経営責任者にはエクセル社副社長のジェームズ・ヴォス氏が就任し、副社長のブイ・ティエン・ロン氏が株式の98%を保有する構造となっている。
2. 先行するロシアおよび韓国との協力状況
ベトナムは米国に先立ち、ロシアおよび韓国との間でも原子力発電に関する具体的な協力体制を構築している。
● ロシアとの連携(2026年3月23日締結): ベトナム初となる原子力発電所の建設に関する両政府間協定を締結。ニントゥアン第1原子力発電所プロジェクト(出力約2,400MW、2基構成)において、ロシア開発の「VVER-1200」原子炉技術を採用する計画である。
● 韓国との連携(2026年4月22日締結): Petrovietnamが韓国電力公社と原発開発に関する共同研究の覚書を締結。さらに、韓国電力公社、韓国輸出入銀行、韓国貿易保険公社との間で資金調達に関する共同研究の覚書を締結している。
2026年7月26日
ベトナム政府は、国会に対し「ハノイ首都圏第5環状道路建設プロジェクト」の投資方針承認を求める提案書(第442/TTr-CP号)を提出した。本プロジェクトは、ハノイ市を含む7省市を通過する全長約349kmの完全6車線高速道路整備計画であり、概算総投資額は約288兆2,680億ドン(約1兆7,364億円)に達する。2030年までの部分完成・2031年供用開始、2035年までの全線完成を目指す。
1. プロジェクトの全体概要と資金構造
本道路は、ハノイ市イエンバイ地区を起終点とし、ハノイ市、ニンビン省、フンイエン省、ハイフォン市、バクニン省、タイグエン省、フート省の7地方自治体を接続する。
● 事業規模と用地: 計画規格は6車線の高速道路であり、概算用地需要は約4,010.6haである。
● 資金調達と役割分担: 公共投資方式を基本とする。中央政府予算は高速道路本線の用地徴用および建設に充てられ、地方政府予算は併設道路、緑化帯、歩道の整備および用地徴用を担う。
2. 企業立ち退き支援策
政府はプロジェクトの迅速な推進に向け、10の特例政策の適用を要求している。このうち8項目は過去の国家重要案件で適用実績のあるものであり、特に注目される新規の2政策の概要は以下の通りである。
● 企業向け用地補償の特例(第9の政策): 用地回収により操業継続が困難となった製造企業に対し、移転先工業用地の用地徴用およびインフラ整備を地方自治体が実施し、その費用を本プロジェクトの補償・再定住コンポーネントに計上することを認める。
● 投資形態変更の柔軟化(第10の政策): 公共投資として承認された後も、建設省大臣または省級人民委員会主席の決定により、国会への再承認手続きを経ることなく官民連携方式への変更・民間資金動員を可能とする。
3. 段階的投資シナリオと優先整備区間
建設準備に約3年、施工に2〜3年を要することを見込み、政府は2つの段階的投資プランを比較検討した。
● 案1/区間別優先投資案(政府推奨): 2026〜2030年の期間において、中央予算(約59兆7,000億ドン/ 約3,596億円)を優先度の高い東部区間(タイハ橋〜バクザン・ランソン高速JCT間、約116km、事業費約77兆ドン/ 約4,638億円)の完全6車線化建設に集中投入する。早期供用による投資効果が見込めるため、政府はこちらの案を推奨している。
● 案2/項目別優先投資案: 2026〜2030年に全線の用地徴用(約49兆8,510億ドン)を先行完了させる案だが、道路が早期に形成されず土地の空き地化や資金の非効率化を招くリスクが指摘された。
4. 今後のスケジュール
2026年の投資主張承認、2026〜2027年の実現可能性調査承認および用地回収を経て、2027年末の着工、2030年の東部区間完成・2031年供用開始を目指す。残る区間については2031〜2035年に資金調達を行い、2035年までに全線の環状線を完成させる計画である。
※2026年7月23日時点のレートで換算
(1 JPY = 166.01 VND、1 USD = 26,520 VND)