ベトナム・ホーチミン市は、国家予算や政府開発援助のみに依存する従来の鉄道投資モデルから脱却し、官民連携方式(PPP方式:Public Private Partnership)を活用して民間資金を呼び込む戦略を進めている。市は交通結節点開発(TOD:Transit-Oriented Development)を軸とした都市空間の再構築を目指しており、2030年までに約200km、2045年までに網羅的な都市鉄道(メトロ)網を完成させる計画である。これを実現するため、リスク分担や周辺土地開発といった新たな利益配分方法の構築が急務となっている。
【背景と民間企業の参入動向】
2024年12月に開業したメトロ1号線(ベンタイン~スオイティエン間)に続き、市は2035年までに総延長355kmのメトロ網を整備する目標を掲げている。2030年までの優先6路線(総投資額推計190億米ドル超)に対し、国内主要企業がPPPや直接投資による参画・研究を表明している。
主な民間企業の提案・進捗動向:
・タコグループ(Thaco): メトロ2号線(ベンタイン-トゥーティーム間)を2026年4月に着工。トゥーティーム-ロンタイン間鉄道も同年7月に着工予定。
・ビングループ(Vingroup): ベンタイン-カンゾー間のメトロ投資を研究中。
・ソビコグループ(Sovico)およびマステライズグループ(Masterise): それぞれメトロ4号線、3号線へのPPP方式等での参画を提案。
・ベカメックス(Becamex): バウバン-カイメップ間の国家鉄道投資案を研究中。
【収益性の課題と打開に向けた3つのボトルネック】
都市鉄道は高速道路のような直接の料金徴収による投資回収が難しく、運賃収入だけでは建設・運営・保守コストを賄えない。専門家は、PPP投資を現実化するために以下の3点の実効的な解決を提唱している。
・リスク分担メカニズムの構築: 開業初期の需要不足による減収分を政府が補填、または運営費を補助するリスク配分制度。
・TODによる収益多角化: 駅周辺の商業・オフィス・住宅開発権を民間投資家に付与し、鉄道事業の赤字を補填する仕組み。
・適切な財務管理と利益率の設定: 鉄道投資に対する適正な目標利益率を明確にし、民間資金をコントロールする。
【制度的優位性と今後の提言】
ホーチミン市は、国会決議(決議第98号および決議第188号)により、土地収用やTOD開発に関する多くの特権的な制度を認められている。
・土地収用の分離: 民間投資家が最も懸念する遅延リスクを避けるため、市が公的資金または地方債を用いて「クリーンな土地」を確保した上で、民間側に引き渡す方式が推奨されている。
・海外事例の導入: シンガポールや香港のように、鉄道整備に伴う開発利益を民間側が回収・還流できるモデルを容認することで、企業の初期投資負担を軽減し、公共交通としての持続可能性を担保することが求められている。
