2026年4月10日
グラントソントン(Grant Thornton:世界有数の会計・経営コンサルティングファームのベトナム法人)の報告によると、2026年3月のベトナムM&A市場は、投資家の慎重な姿勢を背景に、小規模な案件が幅広い業種に分散する傾向が続いた。当月の取引件数は24件、公表された総取引額は約1億400万ドルであった。
【市場のトレンドと主要セクター】
2026年第1四半期の累計取引件数は51件と前年同期比で36%減少したが、総取引額は6億5,900万ドル(24%増)に達し、1案件あたりの平均規模は拡大している。
・件数ベース: 産業製造(6件)、物流・インフラ(3件)が先行。
・金額ベース: 不動産、エネルギー、産業製造の3分野が、それぞれ総額の30%以上を占めた。
・投資家層: シンガポール、日本、英国、インドネシアの外資勢が活発である一方、PEファンド(Private Equity Fund: 未上場企業に投資し、企業価値を高めて売却する投資ファンド)は小規模案件に留まるなど慎重な姿勢を見せている。
【3月の主な注目案件】
・不動産:ベトナムコンテナ総公社(Viconship:ベトナム最大級の港湾・物流企業)がハーバーシティ社の株式65%を約3,470万ドルで取得し、ハイフォン市の工業用不動産プロジェクトの支配権を確保した。
・エネルギー:レバンタ・リニューアブルズ(Levanta Renewables:東南アジアで再生可能エネルギー開発を行うプラットフォーム)がHBREザーライ風力発電の株式80%を3,310万ドルで取得完了した。
・物流:APMターミナル(APM Terminals:デンマークの海運大手APモラー・マースク傘下の港湾運営会社)がハテコ・ハイフォン国際コンテナ港の株式49%を取得し、北部深水港インフラに参入した。
・製造:ホシザキ・ベトナム(Hoshizaki Vietnam:業務用厨房機器で世界シェアを持つ日本企業)がARICO社の株式を買い増し、保有比率を99.62%まで引き上げる合意に達した。
・金融:クレディボ・グループ(Kredivo Group:インドネシアを拠点とするBNPL・フィンテック企業)がデジタル銀行のTimoを買収し、今後3年間で1,500万ドルの追加投資を計画している。
【その他の重要動向】
・ホーチミン市: AIやロボティクス分野に特化した2,000万ドル規模のベンチャーキャピタル基金の設立計画を発表。
・交渉破談: タイのサイアム商業銀行(SCB)によるホームクレジット・ベトナムの買収計画(約21兆ドン相当)は、条件不一致により中止となった。
・資本撤退: プラチナム・ビクトリー(Platinum Victory)がビナミルク(Vinamilk:ベトナム最大の乳製品メーカー)の全株式を売却し、約3.4兆ドンを回収する見込みである。
2026年4月8日
ベトナム政府は2026年4月5日、スタートアップ国家戦略(政令第86/NQ-CP号)を正式に発出した。
現在、ベトナムには4,000社以上のスタートアップと2社のユニコーン企業が存在するが、2030年までに企業価値10億ドル以上のユニコーン企業を最低5社(現在より3社増)創出することを目指すというものです。 ※ユニコーン企業:未上場で企業価値が10億米ドル以上と評価されるスタートアップ企業
【2030年および2045年に向けた主要目標】
政府はイスラエルや韓国、シンガポールの成功事例を参考に、科学技術とデジタルトランスフォーメーション(DX)を土台とした以下の数値を設定した。
2030年までの目標:
・ユニコーン企業: 最低5社を形成
・ベンチャーキャピタル(VC)市場: 市場規模を15億ドルに拡大
・企業数: 500万の経済主体を形成し、うち1万社をスタートアップとする
・教育・インフラ: 全高等教育機関での起業教育導入、全国300拠点以上のイノベーションセンター設置
・世界ランキング: グローバル・イノベーション・指数(GII)で世界トップ40位以内を目指す ※GIIは各国のイノベーション力を評価する国際指標で、世界知的所有権機関(WIPO)が毎年公表
2045年までのビジョン:
・企業価値1億ドル以上の企業を最低100社創出
・VC市場規模を100億ドルに拡大
・イノベーション・スタートアップ分野で世界トップ30位入りを果たす
【戦略的ソリューション】
ビジョン実現のため、政府は以下の3つの柱を推進する。
・革新的な法的枠組みの構築: 行政手続きの100%デジタル化を推進。また、新技術のための「サンドボックス(規制のサンドボックス制度)」や、再起業を容易にする「簡素化された破産手続き」などの特区制度を試行する。 ※規制のサンドボックス制度:新技術・新サービスの実証を一定期間既存規制の適用外または緩和のもとで行う制度
・人材育成とエコシステムの整備: 初等教育から大学まで起業家精神を教育課程に組み込む。また、共通インフラやデジタルプラットフォームを構築し、コミュニティ全体の起業環境を整える。
・資金調達の円滑化と国際統合: 国・地方・大学レベルでのベンチャーキャピタル基金を育成。知的財産を担保とした信用保証や直接的な財政支援メカニズムを構築し、ベトナム企業をグローバルバリューチェーンへ組み込む。
2026年3月29日
【VIMC:カンジザー国際中継港に約14兆ドンの出資を計画】
ベトナム海事総公社(VIMC:海運、港湾運営、物流サービスを網羅する国内最大の国営海運グループ)は、カンジザー国際中継港プロジェクトを推進するため、総額13兆8,390億ドン(約830億円)の出資を計画している。
・事業体制: VIMC(36%)、サイゴン港(15%)、Terminal Investment Limited Holding S.A(世界的コンテナターミナル運営会社)(49%)による合弁法人を設立。
・規模: 総投資額は約128.8兆ドン。25万DWT(載貨重量トン)級の大型船に対応し、年間1,690万TEU(20フィートコンテナ1個分)の処理能力を目指す。
・戦略: 2026年の最重点プロジェクトと位置づけ、アジアにおける物流需要の拡大と大型船の寄港ニーズを取り込む。
【TNG:アパレル大手から電気自動車(EV)充電インフラへ進出】
TNG投資貿易(TNG:ベトナム北部タイグエン省を拠点とする国内有数のアパレル輸出企業)は、2026年度の事業計画にEV充電スタンドの運営を含む19の新規事業を追加した。
・多角化: 本業の衣料品製造に加え、太陽光発電、電子部品製造、ITサービス、不動産管理へも進出する。
・目標: 2026年の売上高は過去最高の9兆5,000億ドン、税引き後利益は4,500億ドンを見込む。
【PANグループ:BIBICA株の譲渡により2.6兆ドン超を回収】
PANグループ(PAN:農業・食品分野に特化し、バリューチェーン全体を管理する大手投資グループ)は、子会社の菓子メーカーであるBIBICA(BBC)の全株式をMomogiグループに譲渡することを発表した。
・収益: 株式譲渡や配当、関連資産の売却を含め、少なくとも2兆6,300億ドンを回収する。
・目的: 投資サイクルを完了させ、回収した資金を財務体質の再構築や新たな事業投資に充てる。
【FPTリテール:ドローン(UAV)市場への本格参入】
FPTデジタルリテール(FPTリテール:ベトナムIT最大手FPTグループ傘下で、小売チェーン「FPT Shop」や薬局「Long Chau」を運営)は、無人航空機(UAV/ドローン)の卸売、レンタル、および操縦教育サービスを開始する。
・低空経済(低高度空域ビジネス): FPTグループ全体で推進するドローン産業エコシステムの一環。大学での教育から、店舗網を活用した販売・修理までを一気通貫で提供する。
・展望: 農業、測量、救助活動などの新市場を開拓し、2026年の総売上高59.5兆ドン達成を目指す。
【Big Group Holdings:飲食部門を新設】
Big Group Holdings(BIG)(不動産仲介、建設、農産物輸出などを手掛ける多角的ホールディングス)は、飲料サービスを専門とする子会社「Big FnB」の設立を決定した。これにより、不動産・物流・飲食を組み合わせたサービス網を強化する。
2026年3月26日
現在、ベトナム政府内で検討されている航空運送事業に関する新政令案において、航空会社への外国人出資上限(外資キャップ)を現行の34%から49%に引き上げる提案が出されている。これに対し、国家空域の主権や経営支配権の維持を懸念する声と、外資導入による市場活性化を期待する声が対立している。
【ベトナム航空:34%維持を主張】
ナショナルフラッグキャリアであるベトナム航空(VNA)は、現行の34%を維持すべきとの立場を崩していない。レ・ホン・ハ総局長は以下の懸念を表明した。
・国家主権と安全保障: 航空業は単なる商業活動ではなく、国防・安全保障に直結する「戦略的インフラ」である。外資の支配力が強まれば、離島や遠隔地などの不採算路線の維持といった公的な調整機能が損なわれる恐れがある。
・実質的な支配権の喪失: 出資比率が35%を超えると、企業法に基づき重要事項への「拒否権」が外資側に発生する。これにより、戦略的意思決定が国外にシフトするリスクがある。
・利益の不均衡: 好況期には利益が国外へ流出する一方、危機的な状況下での救済負担はベトナム政府が負うという構造的な不公平が生じる。
【他社の動向と当局の視点】
・バンブーエアウェイズ(BAV): 航空運送本体の比率には言及しない一方、空港運営や整備、給油などの「航空サービス分野」については、技術・管理経験の導入のため50%超(最大66%)まで外資比率を認めるべきだと提案している。
・交通運輸省(起草担当): 49%への引き上げは、国際的な開放公約に合致し、企業の資金調達や管理能力向上に寄与すると主張。国内資本が筆頭株主である条件を維持すれば、国防上の緊急事態における制御不能な事態は回避できるとしている。
34%という水準は、外資の技術・資金を取り入れつつ、国内資本の主導権を担保する「安全なバッファ」であるとするベトナム航空の主張に対し、さらなる市場開放を求める声もあり、政府の最終的な判断が注目される。
2026年3月2日
ベトナムが2026年から2030年にかけて掲げる「高く、持続可能な成長」という目標と、それを実現するために必要な制度改革の主なポイントは、以下の通りである。
・成長モデルの転換
従来の「資本・安価な労働力・資源依存型」の成長モデルから脱却し、科学技術・イノベーション・デジタル化を基盤とする新たな成長モデルへ移行する必要がある。
・制度改革の重要性
法律や規制の改正が頻繁で、かつ重複や不整合が多い現状は、企業が長期的な戦略を策定するうえで大きな障害となっている。これを改善するため、一貫性のある法制度の構築と、より高い透明性の確保が求められる。
・科学技術投資の拡大
2030年までに社会資源の60%以上を科学技術分野に投入することを目標としている。その実現には、企業の研究開発(R&D)投資を促進するための具体的かつ実効性のある政策が不可欠である。
・土地管理と都市計画
土地利用における透明性と公平性を確保し、利益相反や不平等を防止することが重要である。これにより、社会的安定の維持と投資環境の改善が期待される。
・金融市場の安定化
突発的な政策変更を回避し、企業が安心して資金調達を行える安定的な金融環境を整備する必要がある。特に、企業債券市場の健全な発展は、銀行依存型の資金調達構造を是正するうえで重要な鍵となる。
・中小企業支援の強化
経済の大部分を占める中小企業が、資金や技術へより円滑にアクセスできるよう、支援策を一層強化する必要がある。
単なる数値目標としての成長を追求するのではなく、制度改革の深化、科学技術の推進、資源配分の公平性の確保、そして金融市場の整備を通じて、ベトナムが持続可能な発展を実現し、国際的地位のさらなる向上を目指す姿勢が強く打ち出されている。