ベトナムにおけるAIブームと管理・セキュリティへの「二重」の圧力

2026年4月22日

ベトナムはデジタルトランスフォーメーション(DX)において高い適応力を示し、AI(人工知能)の活用が急速に進んでいる。しかし、この技術の台頭は、投資効率の管理不足やサイバーセキュリティリスクの増大という新たな課題を企業に突きつけている。専門家は、受動的な防衛から、データに基づいた能動的な管理戦略への転換を促している。

【AI導入における課題と戦略:投資効率と管理の完成度】
アビームコンサルティング・ベトナム(ABeam Consulting:日本に本社を置くグローバルコンサルティングファーム)の織田遼平総支配人は、日本のAI活用が労働力不足の解消を目的とするのに対し、ベトナムでは人間の能力を補完するツールとしての側面が強いと指摘する。
・管理体制の遅れ: 技術水準は国際基準に近いものの、運用管理の成熟度が追いついていない。特に製造業において、AI統合による効率化の余地が大きく残されている。
・投資の最適化: 目的が不明確なトレンド追随型の投資による資源の浪費が懸念されている。企業は「純粋なベトナム製AI」の開発などを通じて、コスト最適化と国内市場へのカスタマイズを両立させる必要がある。
・法人向けAIの重要性: 情報漏洩を防ぐため、個人向けAIと、セキュリティ制御が強化された法人向け(エンタープライズ)AIを明確に区別して運用することが推奨される。

【深刻化するサイバーセキュリティリスク】 
AIの普及に伴い、サイバー攻撃はより巧妙化している。
脅威の現状: カスペルスキー(Kaspersky:世界的に有名なサイバーセキュリティソリューションの提供企業)のデータによると、ベトナムでは年間2380万件以上のオンライン攻撃が記録され、国内企業の約34%がサプライチェーン攻撃の標的となっている。
攻撃の高度化: 標的型攻撃やAIを悪用した攻撃、モバイルデバイスの脆弱性を突く攻撃が増加し、財務的損失やブランド毀損のリスクが高まっている。

【主動的な防衛策:セキュリティ運用センターの構築と法的遵守】
従来の断片的な防衛策から、統合的な「能動的防衛」への移行が不可欠である。
次世代セキュリティ運用センターの導入: AIを統合したセキュリティ運用センターの構築により、脅威の検知・対応を自動化し、リアルタイムの脅威インテリジェンスを活用する体制が求められる。
コンプライアンス: ベトナムの個人データ保護法の施行に伴い、データ管理は戦略的優先事項となった。セキュリティ運用センターはデータの監視と法的遵守を担保する役割も担う。
具体的対策: ホワイトハッカーによるシステム診断、事案発生時の事業継続計画の策定、および従業員へのフィッシング訓練を通じた意識向上が推奨される。

不動産の「身分証明書」導入とセキュリティ強化

2026年4月21日

2026年3月1日より、ベトナム政府は政令第357/2025/NĐ-CP(以下、政令357号)に基づき、国内のすべての不動産に対して「電子識別コード(IDコード)」を正式に発行する。これにより、土地や住宅は単なる物理的な存在から、国家データベース上で一意に識別されるデジタル実体へと移行する。市場の透明性向上が期待される一方で、個人所有情報の保護が管理上の大きな課題となっている。

【データの「孤島」を解消する連結性】
これまでベトナムの不動産情報は、地籍機関、建設部門、銀行、公証役場などに分散しており、情報の照会には多大な労力と時間を要していた。
・情報の統合:IDコードが「糸」のような役割を果たし、都市計画、抵当権の設定状況、紛争歴、取引履歴などの分散したデータを同期する。
・資産価値の明確化:資産のライフサイクル全体におよぶデータ履歴が形成されることで、資産査定が容易になり、法的なリスクやトラブルの減少につながる。


【透明性とプライバシーの境界線】

データが集約されるほど、個人情報や財務情報の漏洩リスクも高まる。
・プライバシーへの懸念:所有権データが適切に管理されない場合、一方的な営業活動やマーケティングに悪用されるだけでなく、個人の安全を脅かす可能性もある。
・管理メカニズムの重要性:単なるセキュリティ技術の問題ではなく、「誰が、いつ、どのような目的でアクセスできるのか」という権限設定と、不正利用に対する説明責任の明確化が求められる。


【持続可能な市場構築に向けた解決策
先進国の事例に基づき、透明性と機密保持のバランスを保つための「階層型アクセス」が提案されている。
① 一般公開層:都市計画や紛争状況など、民間の安全な取引に必要な基本情報のみを公開。
② 制限データ層:所有者の詳細、取引履歴、納税義務などの機密情報は、当局や直接の利害関係者のみにアクセスを限定し、厳格なアクセスログを記録する。


不動産IDコードの導入は、国家のデジタル化プロセスにおける必然的なステップである。このシステムの成功は、高度な技術や暗号化アルゴリズムだけでなく、設計・運用段階における厳格な情報保護体制にかかっている。国民が「自分の資産情報が透明かつ安全に管理されている」と信頼できる環境を構築することこそが、不動産市場の持続可能な発展のための強固な土台となる。

投資法の一部の条項の施行ガイドラインに関する新政令

2026年4月1日

ベトナム政府は2026年3月31日、投資法の一部条項の実施に関する詳細なガイドラインを規定する政令第96/2026/ND-CP号を発出した。本政令は、法改正時における投資優遇措置の維持や、投資家への情報提供義務などを明確化し、投資環境の透明性と安定性を高めることを目的としている。


【法改正時における投資優遇の保証】 
投資家が既に適用を受けている投資優遇措置に対し、後に施行された法的文書が不利益な変更をもたらす場合、投資法第12条に基づき、既存の優遇措置の継続が保証される。
対象となる優遇措置: 投資許可証、投資登録証明書(IRC)、投資方針決定書、およびその他の所轄官庁が発行した文書に規定された内容。
・申請手続き: 投資登録機関(各省・地方の計画投資局)は、投資家からの有効な申請書を受領後、30日以内に投資保証措置の適用を検討・決定しなければならない。

【投資家への情報提供義務(5営業日以内)】
・投資登録機関、都市計画・土地利用計画、資源・環境、建設等の各管理機関は、計画情報や投資プロジェクトリストを公表する責任を負う。
迅速な対応: 投資家から計画情報等の提供依頼があった場合、各当局は依頼受領から5営業日以内に回答しなければならない。
・情報の活用: 投資家は提供された情報を、プロジェクトの書類作成や実施に活用する権利を有する。

【投資禁止および条件付き投資分野】
投資禁止分野: 投資法第6条に規定される禁止業種(麻薬、規定化学物質・鉱物、絶滅危惧野生動物取引等)での事業活動は厳禁である。
・条件付き分野: 投資法附録IV(銀行・保険などの金融業、 不動産開発・不動産仲介 、教育・職業訓練 、医療サービスなど数百にのぼる)に規定される業種については、法的な条件を充足した時点から事業が可能となり、操業期間中はその条件を維持し続ける義務がある。
・行政の透明性: ライセンスの発行、延長、修正を拒否する場合、所轄官庁は投資家に対し、理由を明記した書面で通知しなければならない。

ベトナム航空各社、外国人出資比率の引き上げを巡り賛否両論

2026年3月26日

現在、ベトナム政府内で検討されている航空運送事業に関する新政令案において、航空会社への外国人出資上限(外資キャップ)を現行の34%から49%に引き上げる提案が出されている。これに対し、国家空域の主権や経営支配権の維持を懸念する声と、外資導入による市場活性化を期待する声が対立している。


【ベトナム航空:34%維持を主張】 
ナショナルフラッグキャリアであるベトナム航空(VNA)は、現行の34%を維持すべきとの立場を崩していない。レ・ホン・ハ総局長は以下の懸念を表明した。
・国家主権と安全保障: 航空業は単なる商業活動ではなく、国防・安全保障に直結する「戦略的インフラ」である。外資の支配力が強まれば、離島や遠隔地などの不採算路線の維持といった公的な調整機能が損なわれる恐れがある。
・実質的な支配権の喪失: 出資比率が35%を超えると、企業法に基づき重要事項への「拒否権」が外資側に発生する。これにより、戦略的意思決定が国外にシフトするリスクがある。
利益の不均衡: 好況期には利益が国外へ流出する一方、危機的な状況下での救済負担はベトナム政府が負うという構造的な不公平が生じる。

【他社の動向と当局の視点】
バンブーエアウェイズ(BAV): 航空運送本体の比率には言及しない一方、空港運営や整備、給油などの「航空サービス分野」については、技術・管理経験の導入のため50%超(最大66%)まで外資比率を認めるべきだと提案している。
交通運輸省(起草担当): 49%への引き上げは、国際的な開放公約に合致し、企業の資金調達や管理能力向上に寄与すると主張。国内資本が筆頭株主である条件を維持すれば、国防上の緊急事態における制御不能な事態は回避できるとしている。

34%という水準は、外資の技術・資金を取り入れつつ、国内資本の主導権を担保する「安全なバッファ」であるとするベトナム航空の主張に対し、さらなる市場開放を求める声もあり、政府の最終的な判断が注目される。

暗号資産取引所設立レース:設立要件10兆ドン到達はわずか2社、数兆ドン規模の競合勢が猛追

2026年3月17日

現在、ベトナムにおける暗号資産取引所の設立には、最低10兆ベトナムドンという極めて高い資本金要件が課されており、各社には大手金融エコシステムからの大規模な資金調達が求められている。


決議05/2025/NQ-CPに基づく資本金10兆ドンの基準を突破し、現在トップを走るのは以下の2社である。
Vimexchange: 2025年6月の設立時から資本金10兆ドンを確保。製薬大手Vimedimexグループが50%を出資し、他複数の関連企業が名を連ねる。
・CAEX(VPBankエコシステム): 2026年2月末、資本金を250億ドンから10兆ドンへ大幅増資。LynkiD(50%)とVPBank証券(11%)が主導している。


これに続く「1兆ドン規模」のグループには、大手証券系や多角化企業が集結している。
・VIXEX(VIX証券系)およびSSI Digital(SSI証券系)は、機関投資家からの増資を経て資本金1兆ドンを維持している。
ベトナム・デジタル資産(Sun Group系): 2026年1月に資本金1兆ドンで参入。大手不動産デベロッパーSun Groupが64%、石油証券(PSI)が1%を保有。現在は技術インフラの整備と海外提携に注力している。

中堅・新興グループでは、増資による加速を図る企業が目立つ。
LPEX(Loc Phatベトナム暗号資産): 2026年2月中旬に3,600億ドンへ増資。
HDEX(Sovicoグループ系): 資本金3,000億ドン。HD証券やGalaxyグループが参画。
TCEX(Techcombank系): 資本金1,010億ドン。Dolphinexは50億ドンを維持。
DNEX(DNEXデジタル資産取引所株式会社): 現在は20億ドンと最小だが、10兆ドン到達を目指し戦略的投資家からの資金調達を計画中である。


一方で、Vietcap証券はレースからの撤退を表明した。10兆ドンの資本維持に加え、セキュリティやマネーロンダリング防止(AML)対応に伴う膨大なコストが、現時点での経営リソース配分の優先順位に見合わないと判断したためである。


このような勢力図の分極化は、暗号資産取引所の設立が単なる技術の戦いではなく、長期的な資金動員力とエコシステム全体の調整力が試される過酷な試練であることを浮き彫りにしている。

2026年~2030年:成長への願望と制度的『ボトルネック』解消の要請

2026年3月2日

ベトナムが2026年から2030年にかけて掲げる「高く、持続可能な成長」という目標と、それを実現するために必要な制度改革の主なポイントは、以下の通りである。

成長モデルの転換
従来の「資本・安価な労働力・資源依存型」の成長モデルから脱却し、科学技術・イノベーション・デジタル化を基盤とする新たな成長モデルへ移行する必要がある。

制度改革の重要性
法律や規制の改正が頻繁で、かつ重複や不整合が多い現状は、企業が長期的な戦略を策定するうえで大きな障害となっている。これを改善するため、一貫性のある法制度の構築と、より高い透明性の確保が求められる。

科学技術投資の拡大
2030年までに社会資源の60%以上を科学技術分野に投入することを目標としている。その実現には、企業の研究開発(R&D)投資を促進するための具体的かつ実効性のある政策が不可欠である。

土地管理と都市計画
土地利用における透明性と公平性を確保し、利益相反や不平等を防止することが重要である。これにより、社会的安定の維持と投資環境の改善が期待される。

金融市場の安定化
突発的な政策変更を回避し、企業が安心して資金調達を行える安定的な金融環境を整備する必要がある。特に、企業債券市場の健全な発展は、銀行依存型の資金調達構造を是正するうえで重要な鍵となる。

中小企業支援の強化
経済の大部分を占める中小企業が、資金や技術へより円滑にアクセスできるよう、支援策を一層強化する必要がある。

単なる数値目標としての成長を追求するのではなく、制度改革の深化、科学技術の推進、資源配分の公平性の確保、そして金融市場の整備を通じて、ベトナムが持続可能な発展を実現し、国際的地位のさらなる向上を目指す姿勢が強く打ち出されている。

ベトナムにおける「国家管理」から「国家ガバナンス」への転換の難しさ

2026年1月5日

(Nguyễn Tiến Lập 氏 :NHQuang & Cộng sự法律事務所のメンバーであり、また ベトナム国際仲裁センター(VIAC)の仲裁人による)
ベトナムでは、計画経済から市場経済への移行が進む中で、国家の役割を「管理」から「ガバナンス」へと転換する必要性が強調されています。しかし、この転換は理論的には必然であるものの、現実には多くの障害が存在しています。
背景:かつて国家は土地や生産手段を独占的に所有し、社会全体を直接管理してきました。そのため「国家管理」という概念が根強く残っています。
現状:市場経済の発展により、民間企業や市民社会が重要な主体となり、国家は法制度を通じて間接的に関与するべき段階にあります。
課題:
・政策立案者の「管理」思考が依然として強く、行政的介入が多い。
・土地制度において国家が依然として絶対的権限を保持し、利用目的・価格・期限・収用を厳しく制御している。
・国家と社会の関係が「上から下へ」「許可と依存」に偏り、対等なパートナーシップが未成熟。
必要な改革:財産権の確立、透明性と説明責任の強化、そして憲法裁判所の設置など、法の支配を保障する制度改革が不可欠。