東京都に本社を置く食品スーパー運営会社のさえきセルパホールディングスは、海外進出の第1号市場としてベトナムを選び、今後3年以内にホーチミン市で1号店を開業する計画である。初期段階では中間所得層を対象に、小型の食品スーパーを展開し、長期的にはベトナム国内で最大100店舗のネットワーク構築を目指す。
同社は現在、日本国内で56店舗を運営しており、東京都のほか神奈川県、埼玉県、山梨県、静岡県、島根県、鳥取県、茨城県、千葉県などに店舗を展開している。ベトナムで100店舗を実現すれば、同国の店舗数は日本国内の約2倍となる。
海外展開に向け、さえきは2026年6月1日にベトナム法人を設立した。法人は同社が100%出資しており、現地での事業基盤と人材確保を目的としている。
特徴的なのは、店舗開業前からベトナム人材の育成を進めている点である。同社は日本国内の店舗で外国人材を受け入れており、2026年8月時点で技能実習などの在留資格を持つ外国人労働者は138人に達した。2026年6月には約20人の実習生を受け入れ、その多くがベトナム人であった。
ベトナム人材は日本の店舗で少なくとも3年間勤務し、惣菜、精肉、水産などの食品加工や店舗運営を学ぶ。その後、ベトナム帰国後には売場管理、商品開発、店舗運営などについて追加研修を受ける想定である。
同社の山本憲史・専務取締役は、店舗全体の人員・財務管理を担える店長の育成には通常約10年を要すると説明している。一方、ベトナムでの出店速度が想定を上回る場合は、現地人材を早期に管理職へ登用する可能性もある。開業初期には日本人社員が現地店舗の立ち上げや運営を支援し、長期的にはベトナム人が現地ネットワークを管理する体制を目指す。
さえきが日本で展開してきたのは、大型店を中心とする総合スーパーではなく、地域ごとの食文化や消費者ニーズに対応する食品スーパーである。ベトナムでも日本の衛生管理や店舗運営のノウハウをそのまま移植するのではなく、現地の食文化や生活習慣に合わせた商品・店舗運営を進める考えである。
ベトナムの小売市場では、国内企業がすでに多数の店舗網を構築しているほか、日系ではイオンなどが先行している。佐栄は「日本食品」の販売だけを競争軸とするのではなく、ホーチミン市の住宅地を中心に、価格、立地、生鮮食品、惣菜、利便性などで既存の小売事業者と競争することになる。
法制度面では、2026年9月3日に政府が公布した政令342/2026/ND-CPが10月18日に施行される予定である。外国人投資家による2店舗目以降の小売店設立について、経済需要審査(ENT)の扱いが重要となるが、日本とベトナムはいずれもTPP11加盟国であり、同協定に基づくENT撤廃の対象となっている。これにより、日本企業が複数店舗を展開する際の制度面の負担は従来より軽減される。
一方、100店舗という目標を実現するには、許認可だけでなく、物件確保、物流、食品安全、サプライチェーン、人材育成など多くの課題が残る。ベトナムでは伝統的小売店が食品小売市場の約83%を占めるとされ、所得上昇に伴う近代的小売への移行が進む一方、競争も激しい。
さえきは現時点で、ベトナム1号店の具体的な所在地、店舗面積、投資総額、100店舗の達成時期を明らかにしていない。ベトナム法人の設立と現地人材の日本での育成は進んでいるものの、56店舗を運営する日本企業がベトナムで100店舗を構築するまでにはなお大きな事業拡大が必要である。
同社はベトナムを東南アジア進出の起点と位置付けており、同国での事業展開を通じて現地運営モデルを構築し、将来的には他の東南アジア市場への展開も視野に入れている。
