ベトナムは低コストの組立拠点から、高付加価値型の生産拠点へ移行しつつある。ただし、国際的な高度技術サプライチェーンで役割を拡大できるかは、政策の実行力、人材、インフラ、デジタル化、環境対応に左右される。
1.海外企業が高度技術分野への投資を拡大
ミスミグループ本社は2026年8月、ベトナムなどで約46億円を投じ、データセンター向け光通信機器の製造装置に使われる自動位置決めステージの生産能力を約3倍にする計画を発表した。
クアルコムのクリスティアーノ・アモン最高経営責任者は、ベトナムを同社で世界3番目の規模となる人工知能(AI)研究開発拠点にしたいと表明した。サムスン電子の盧泰文最高経営責任者も、同国で研究開発投資を拡大する方針を示した。
2.製造競争力はアジア3位
アジア市場への進出・事業展開を支援する専門サービス会社であるDezan Shira & Associatesの「Asia Manufacturing Index 2026」は、アジアの主要製造拠点11カ国・地域のうち、ベトナムを総合3位と評価した。経済分野は1位、国際貿易とインフラは各3位である一方、労働力は7位、イノベーションは8位にとどまった。
同社は、外国直接投資と電子・再生可能エネルギー分野の供給網拡大により、ベトナムが低コストの組立拠点から、より高度な産業基盤へ移行していると分析した。
AI関連機器におけるベトナムの世界貿易シェアは、2015年の1.2%から2025年には12.4%へ上昇した。台湾や韓国との機械・電気設備貿易も拡大しており、最終組立以外の工程への進出を示している。
3.貿易統合とインフラが強み
通関の近代化、自由貿易協定、高速道路、港湾、空港、工業団地の整備が、納期短縮と取引費用の削減を支えている。2026年第2四半期の工業用地稼働率はハノイでほぼ100%、バクニン省とフンイエン省で70%超となり、高度技術、AI、電子部品企業の需要が中心である。
HSBCベトナムのグローバル・トレード・ソリューション部門責任者スラジット・ラクシット氏は、電子、半導体、AI、高度技術を優先する政策が、国際企業の投資基準と合致していると指摘した。
4.実行力と国内企業の高度化が課題
一方、電力供給、行政手続き、都市部の交通渋滞、技術人材、イノベーション能力には改善余地がある。ラクシット氏は、政策を明確で安定した実行可能な制度へ転換できるかが、投資先選定の決定要因になると述べた。
国際企業は現在、低価格や納期だけでなく、供給網の強靱性、技術革新、労働基準、製品追跡、ESG(環境・社会・企業統治)データの信頼性を重視している。そのため国内企業には、デジタル化と脱炭素化を同時に進め、受注、輸送、電子請求書などの検証可能なデータを資金調達にも活用する体制が必要である。
