ベトナムは過去12年間にわたり、消費者物価指数(CPI)の上昇率を政府目標(多くの年で4%未満)内に抑え、マクロ経済の安定や自国通貨ドン相場の維持を実現してきた。しかし、2026年上半期はCPIが上昇を続け、政府の通年目標(4.5%)に接近しており、インフレ抑制策の強化が求められている。
1. 需給動向と貿易収支の構造変化
2026年上半期の実質GDP成長率は8.18%と近年で最も高い伸びを記録し、最終消費は8.15%増、総資本形成は15.2%増となった。通常、需要に対して供給が十分であれば物価は安定するが、以下の要因がCPIを押し上げた。
・主要費目の高騰: CPIバスケット(代表的な商品・サービス)で最大のウェイトを占める食品・外食サービス(4.79%増)、住宅・電気・水・燃料・建設資材(6.72%増)、運輸(5.23%増)が全体を牽引した。
・貿易収支の赤字転換: 10年続いた貿易黒字から一転し、2026年上半期は166.6億ドルの貿易赤字(サービス収支を含めると210億ドル超の赤字)を記録した。加工・組み立て産業用の中間財の輸入依存度が高いため、輸入増加が国内需要を一段と押し上げ、インフレ圧力となった。
・資金移動の拡大: 金・不動産・暗号資産市場から製造業や企業投資、消費財市場へ資金がシフトし、需要側の物価上昇圧力を高めた。
2. 生産コストの上昇と経済効率の低下
工業生産者物価および原材料価格が5.4%上昇、倉庫・物流サービス価格が4.6%上昇し、いずれもCPI上昇率を上回った。また、工業生産(10.8%増)の伸びが付加価値額(9.86%増)の伸びを上回っており、中間投入コストの高騰が企業の収益性を圧迫し、さらなる物価上昇圧力(コスト押しインフレ)を生み出している。
3. 財政・金融要因と為替リスク
・財政黒字のインフレ抑制効果: 国家財政収入が前年同期比17.4%増となった一方、歳出は0.1%増にとどまり、419.1兆ドンの財政黒字を計上した。市場の余剰流動性を吸収し、投機的市場への資金流入を防ぐことで、インフレ期待の抑制に寄与した。
・信用成長と預金のギャップ: 6月26日時点の信用成長率は7.41%となり、預金増加率(6.11%)を上回った。この乖離は銀行システムの流動性を圧迫し、通貨供給量を増やしてインフレリスクを高める要因となる。
・為替レートの影響: 上半期のVND/USD平均レートは1.75%のドン安となり、比較的安定して推移した。しかし、大幅な貿易赤字とドル建て輸入価格の上昇が続く中、さらなるドン安が進めば輸入インフレが悪化するリスクがある。
年内の残り期間において実効性のある物価安定化策が講じられなければ、ベトナムは12年ぶりに通年CPI目標(4.5%)を超過する恐れがある。目標超過は強い経済成長の成果を相殺し、マクロ経済の安定を損なうとともに、生活者(消費者)のリアルな購買力を低下させるリスクをはらんでいる。
