世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCの元研究開発ディレクターであるコンラッド・ヤング(楊光磊)博士は、2026年6月19日にハノイで開催された国際会議「WeFab 2026」において、ベトナム半導体産業の可能性についての見解を示した。かつては注目していなかった同国だが、外資系企業の現地拠点における人材育成の実績を目の当たりにし、評価を一変させた。同博士は、ベトナムは過去の台湾のモデルを完全に模倣するのではなく、独自の「DNA」を構築すべきだと提言している。
1. 評価一変の契機とベトナムの人材優位性
数年前まで半導体分野においてベトナムの存在を意識していなかった同博士だが、現地視察を通じてその潜在力を高く評価するに至った。
● 育成実績による確信:マーベルやルネサスのホーチミンオフィスにおいて、現地の若手人材が実務未経験からグローバル水準のエンジニアへと育成されている実態を確認したことが、その確信につながった。
● 豊富な若手人材の確保:台湾、米国、中国、韓国などの主要国が少子高齢化や若者の半導体離れに直面する中、ベトナムは世界トップクラスの豊富で意欲的な若手人材を有している。
● 実践教育の必要性:オリンピックなどの実績から数理・科学の基礎力は高いものの、卒業前に産業界の実際のプロジェクトに触れるインターンシップなどの実践的な技術教育の拡充が求められる。
2. 2030年までに5万人育成の目標達成へのアプローチ
ベトナム政府が掲げる「2030年までに5万人の半導体エンジニアを育成する」という目標に対し、市場の吸収能力を考慮した戦略が必要である。
● グローバル市場との接続:国内市場だけで全人材の雇用を早期に創出するのは困難であるため、まずは米国や台湾などの先進拠点へ若手を送り、実務経験を積ませるべきである。
● 先進国からの経験吸収:製造および産業実行力に強みを持つ台湾と、市場需要および最先端イノベーションに強みを持つ米国の双方から異なる経験を学ぶことが有益である。
● ネットワークの強化:国内外の半導体協会などの組織を通じて国際連携を深め、グローバル・バリューチェーンへの参入を進める必要がある。
3. 参入すべき推奨領域の選定
莫大な投資が必要な前工程の製造工場の建設を急ぐのではなく、市場需要が明確で投資効率の高い領域への集中を推奨している。
● 回路設計:製造業に比べて参入障壁が低く、多くの人材を吸収できる領域であり、ベトナム国内市場の需要(スマートカード等)と連動させて発展させることが可能である。
● 後工程:最先端の製造工場に比べて投資額を大幅に抑えられ、参入の機会が多い領域である。
● 物流・サプライチェーンハブ:東南アジア地域における半導体エコシステムの配送・流通拠点を構築する方向性も有効である。
● 既存市場の代替(チャイナ・プラス・ワン):サプライチェーンの脱中国シフトを背景に、国内のOEM/ODM企業が輸入している部品を国内製へ徐々に置き換える「既存市場の代替」に焦点を当てるべきである。
4. 政府および国内大企業の役割と実行力
初期段階における政府の政策支援と、エンドユーザー市場を持つ国内有力企業の主導的な役割が不可欠である。
● 政策的な利用促進:政府は、国内の大型商業企業に対し、ベトナムで設計・供給されたチップや部品を一定割合(例えば10%から)採用することを促す政策を講じるべきである。
● 国内大企業の主導:電気自動車(EV)を展開するビングループなどの現地有力企業や、現地に展開するサムスンなどの市場やサプライチェーンを活用し、国内の半導体需要を牽引することが求められる。
● 具体的なプロジェクトの実行:戦略の策定にとどまらず、具体的なプロジェクトを通じて顧客から学び、失敗を重ねながらも継続的に改善する「実行力」こそが発展の鍵となる。
