ベトナムの貿易収支は2025年12月から2026年5月前半にかけて約6ヶ月連続の貿易赤字を記録しているが、公式市場における米ドル(USD)/ベトナムドン(VND)の為替レートは狭い範囲での変動にとどまっている。アナリストの分析によると、輸入拡大の大部分が将来の輸出に向けた生産用原材料や部品であること、また、外国直接投資(FDI)の流入やVNDとUSDの金利差など、国際収支上の他の外貨流入源がUSDの需給を支えているためである。
【貿易赤字の要因:輸出向け生産原資の先行輸入と季節性】
通常、貿易赤字は外貨(USD)の流出を意味し、現地通貨安の圧力を生むが、今回の赤字は国内の消費需要の急増ではなく、生産活動の活発化を反映している。
■ 生産財の輸入集中: 財務省統計総局等のデータによると、輸入増を牽引しているのは電子部品、機械、デバイス類である。これは今後の輸出サイクル(2026年後半)に向けた準備や、サプライチェーンの分断リスク、および記憶用半導体などの国際価格上昇に備えた企業の「先行在庫積み増し」が背景にある。
■ 季節的要因: 電子機器業界では、輸出の最盛期(通常8月頃)に先立ち、5月や6月に原材料・部品の輸入がピークを迎える。そのため、現在の貿易赤字は一時的なミスマッチであり、数ヶ月後には輸出による外貨還流へつながる見込みである。
【国際収支における他の外貨需給変動要因】
為替レートは貿易収支だけでなく、総合的な国際収支の各項目に影響を受ける。
■ FDIのネット流入(プラス要因): 2025年のベトナムへの直接投資純流入額は四半期ごとに38億〜71億ドル規模の黒字を維持しており、市場へ安定的に米ドルを供給している。
■ 投資収益の流出(マイナス要因): 一方で、FDI企業が本国へ送金する利益や配当(投資収益)は四半期あたり24億〜57億ドルの赤字(流出)となっており、外貨需給に影響を与える主要な要因の一つとなっている。
■ 「誤差脱漏」項目の縮小: 2025年第3・第4四半期には、国際収支統計上の「誤差脱漏」がそれぞれ113億ドル、124億ドルの赤字を記録した。これは金市場や闇外貨市場、未統計のクロスボーダー資金移動を反映しているとされるが、2026年に入り非公式市場への取り締まりが強化されたことで、この分野からの為替圧力は緩和しつつある。
■ 金利差の恩恵: 2025年末以降、国際インターバンク市場のUSD金利が年約3.7%で推移するのに対し、VND金利はそれを約2.5ポイント上回っている。この金利差がドンの保有インセンティブを高め、投機的なドル買いを抑制している。
