ビングループ傘下の大手不動産開発会社ビンホームズは2026年5月25日、市民が保有する「手元の金」を同社不動産物件の購入資金に充当できる、金・不動産交換プログラムを発表した。本プログラムは貴金属大手の金銀宝石会社との提携により実施される。この異例のスキームをめぐり、金融・経済の専門家からは仕組みの分析とリスクへの懸念が相次いでいる。
【プログラムの構造と投資家の選択肢】
参加者は、現在の金価格ベースで金を資金に換算して同社物件を購入する。5年後、投資家には以下の2つのオプションが与えられる。
■不動産の保有継続: 不動産価格が大幅に上昇した場合、そのまま物件の所有権を維持する。
■買戻し権利の行使: 物件を返却し、「5年後の金価格の110%」に相当する現金を受け取る(当初の換算時ではなく、5年後の時価が基準となる)。
【専門家による懸念とリスク要因の指摘】
1. マクロ経済および通貨政策への影響
国民経済大学・経済学部長のファム・テ・アイン副教授は、本スキームの本質を「金のレポ取引(買戻条件付取引)」に近いと指摘し、以下の4つのリスクを挙げている。
■ 「金化」の再燃: 金が不動産の決済手段として機能し、金建ての利息が支払われる形になるため、国民の間で「金ベースの価格評価」や金貯蔵の傾向が強まる。結果としてベトナムドンの地位が弱まり、中央銀行の金融政策に悪影響を及ぼす。
■ 流動性の凍結: 国際市場で流通可能な資産(金)が、個人の所得を大きく超える価格の「不動産」という流動性の低い資産に固定化される。集まった金が国家の準備預金に入らない場合、外部ショックへの国家の耐性が低下する。
■ 企業の支払い能力: 過去数年のように金価格が急騰した場合、5年後に企業側が金価格の110%の現金を払い戻す負担に耐えきれず、債務不履行に陥るリスクがある。
2. デリバティブの構造と流動性
英国ブリストル大学の金融・会計プログラムディレクターであるホー・クオック・トゥアン上級講師は、この取引を「不動産の購入」と「売る権利の保有」の組み合わせと定義している。
■ 投資家側のリスク: 投資家にとっては、金や不動産の価格変動リスクは回避できるものの、ビンホームズ自体が倒産・破綻した場合に約束が履行されない「取引相手方の信用リスク」を全面的に負う。
■ 企業(売手)側のリスク: 金価格が急騰する一方で不動産価格が低迷した場合、多くの投資家が現金返還(110%払い戻し)を選択するため、ビンホームズは甚大な流動性圧力(資金ショート)に直面する。
【企業の想定されるリスクヘッジ(回避策)】
ホー・クオック・トゥアン氏は、ビンホームズが5年後の流動性リスクを回避するための財務手法として以下の2案を挙げているが、いずれも金価格の上昇率が不動産の上昇率を上回った場合、キャッシュフローの管理が最大の課題になると強調している。
■ 国際市場でのヘッジ: 海外市場で金/米ドルのオプションを購入する。この場合、USD/VNDの為替リスクが発生する。
■ 専門金融機関への委託: 回収した金を専門の金取り扱い機関に譲渡し、運用・リスク管理を委託する。その機関から5年後に110%のキャッシュフローを受け取る契約を結び、見返りとして不動産売却益の一部や管理手数料を支払う。
