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Vol.27 | 2026.7.28 |
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| 夢と現実の狭間で~ハノイ、「メトロ×社会住宅」構想の成否 |
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ハノイ・メトロ2A号線 トゥオンディン駅。メトロの拡張が、TOD構想の核となる。 |
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| メトロを軸に描く新たな都市像 |
| ベトナムの首都ハノイがいま、都市構造の抜本的な再定義という、野心的な実験に乗り出している。人口の爆発的増加、止まらない住宅価格の高騰、そして都心部への過度な一極集中。これらの慢性的な都市問題を解消すべく、ハノイ市は「公共交通と住宅政策の一体化」という、いわばTOD(公共交通指向型開発)の王道とも呼べる戦略を本格的に始動させた。 その規模は圧倒的だ。ノイバイ国際空港や主要な衛星都市を網羅する総延長300km超の都市鉄道(メトロ)5路線を同時着工し、これと並行して3件の賃貸用社会住宅プロジェクトを推進する。総投資額は概算で1,300兆ドン(約7.79兆円)にのぼる。政府の描く青写真は明確である。メトロを都市の背骨とし、駅周辺に住宅や商業施設、教育機関を集中させることで、車やバイクに依存した都市から、職住近接が可能な「持続可能な都市エコシステム」への脱皮を図るというものだ。 この構想が実現すれば、都市の利便性は飛躍的に向上するだろう。都心部で働く若年層や地方からの流入者が、交通利便性の高い郊外に住む選択肢を持つことで、住宅バブルの緩和や地域格差の是正も期待できる。その意味で、今回の取り組みはベトナムという急成長国の都市開発において、極めて理にかなった「処方箋」に見える。 |
| 壮大な構想に立ちはだかる現実 |
| しかし、この壮大な計画が直面するであろう現実は、政府の描くバラ色のシナリオよりもはるかに複雑で厳しいものになる可能性が高い。 最大の懸念は、インフラの整備速度とソフト面での規制の乖離である。海外の先行事例が示す通り、メトロの開通は、その周辺の地価を瞬時に押し上げる。もし、駅周辺の土地利用規制やゾーニング管理が緩ければ、本来意図していた「低所得者向けの社会住宅」は開発業者の利益追求の前にかき消され、高層マンションが乱立するだけの「局所的な超過密エリア」を生み出す恐れがある。公共交通を整備したにもかかわらず、周辺の再開発が中途半端な高密度化に終われば、インフラが都市の断片化を助長するという皮肉な結果を招きかねない。 また、「賃貸住宅」という居住形態が、ベトナム社会にどれほど深く浸透し、機能するかも未知数だ。土地の所有権に強いこだわりを持つベトナムにおいて、流動性の高い賃貸社会住宅が、地方からの流入者にとっての「永続的な居住のセーフティネット」として定着するか。あるいは、特定の層だけが利益を享受する隔離された施設にならないか。これには、単なる住宅供給数だけでなく、コミュニティの持続可能性を見据えた緻密な運用設計が不可欠である。 さらに、約7.79兆円という巨額の投資コストの回収スキームも無視できない。利用者の運賃だけで投資を回収することは不可能に近く、沿線開発から得られる価値をどう還元し、持続的な維持管理体制を築くのか。現時点では、その具体的な道筋は必ずしも透明とはいえない。 |
| 成否を決めるのは実行力 |
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ハノイの試みは、都市の「かたち」を変えようとする勇敢な挑戦であることは間違いない。しかし、都市とは本来、計画者が描く図面どおりに動くものではなく、人々の生活習慣や資本の論理が複雑に絡み合う有機体だ。 メトロという「線」が引かれたことで都市がどう変容するか。それは、箱物を作ることよりも、その後の土地管理、家賃の適正化、そして多様な人々が混在できる「都市の包摂性」を、行政がいかに粘り強く守り抜けるかにかかっている。ハノイという巨大な実験場は、いま、近代都市への進化か、あるいは高密度ゆえの硬直化かという、分水嶺に立っている。この計画の成否は、都市計画の「壮大さ」ではなく、その実行における「緻密さ」と「規律」によってのみ、真に評価されることになるだろう。 |
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川島 博之 ベトナムVINグループ主席経済顧問 Jパートナーズ顧問 農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。 主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。 |
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