Vol.18 2026.3.10
黄色信号が点り始めたベトナムの金融システム

VietinBank支店外観。ベトナムの各銀行では金融システムへの懸念が広がっている。
(Photo:Jpagn / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons))

コール金利の急騰と金融政策の制約
 ベトナムの金融において、いくつかの危険な兆候が見え始めた。年初に銀行間コール市場の翌日物金利が年率17.25%まで急騰した。これは異常なことといってよい。米国のコール市場の金利は3.5~4%、日本は0.75%程度である。テト(旧正月)前で資金需要が急増したためとされるが、それにしてもここまで上昇することは異常である。その後、中央銀行が資金を供給したために低下して、2月12日の時点では3.7~4.0%程度になっている。
 中央銀行がコール市場に資金を供給することは通貨ドンの下落要因になる。中央銀行は為替相場を見ながら資金を供給しなければならない。現在のベトナムは貿易黒字国であるために、中央銀行の金融政策に余裕がある。しかし米国はベトナムが中国からの迂回輸出の拠点になっていることを問題視しており、今後も貿易黒字が続く保証はない。もし赤字に転落すれば、ベトナムは外貨準備が少ないので中央銀行はドンのレートを維持するためにも、無闇に市場に資金を供給できなくなる。

LDR上昇と過剰融資のリスク
 その他にも危険な兆候がある。銀行が個人や企業から集めた資金を融資に回している割合をLDR(Loan to Deposit Rate: 預貸率)と言う。LDRは70~80%程度が健全とされ、100%を超える状態はオーバー・ローンとよばれて危険な兆候とされる。ベトナムの銀行のLDRは、VPバンクが128%、VIB(ベトナム国際銀行)が115.87%、VietinBank(ベトナム産業貿易銀行)が101.25%などとなっており、多くの銀行が100%を超えている。日本もバブル期にLDRが高くなったが、それでも100%を超える銀行はなかった。当時のLDRは80~90%台前半で推移している。
 ベトナムの銀行は信用供与の伸びに預金の増加が追いついていない。明らかにリスクを取り過ぎである。銀行は金利を上げて預金の獲得競争をはじめているが、それは貸出金利の上昇につながり、景気を悪化させる原因になる。
 銀行の融資先は明らかになっていないが、不動産関連企業が多く含まれていると思われる。不動産業者への過剰融資は不動産高騰の原因になっている。ハノイやホーチミン市の新築マンションの価格は庶民の年収の20~30倍である。完成した物件の多くは転売業者が購入しているとされ、実需に結びついていない。このような状況で、もし転売業者や不動産デベロッパーの倒産が頻発すれば銀行の不良債権が増加して、金融不安に発展しよう。

情報開示の遅れと世界金融不安の影響
 どうもベトナムの昨今を見ていると、日本のバブル期や中国の数年前を見ているように思える。日本や中国で起きたことが、これからベトナムで起きる可能性がある。
 筆者は今回はじめてベトナムの多くの銀行のLDRが100%を超えているとの情報に接した。ベトナムの金融情報は十分に開示されていない。このような状況は是正する必要がある。ベトナム政府と中央銀行は銀行に対する監視を強める必要がある。
 ベトナムの金融システムは問題を孕み始めた。大丈夫と思っていても金融危機は突然訪れる。ベトナムの金融システムは黄色信号が点り始めた。金融当局はそれを金融危機に発展させないように努力すべきである。
 ただベトナムの努力だけでは防ぐことはできないかも知れない。それはここに来て金や銀の価格が急上昇するなど、ドルを中心とした世界の金融システムへの信任が揺らいでいるからだ。世界の金融システムが揺らげば、ベトナムなどの開発途上国に大きな影響を与えることになる。緊張感を持ってベトナムの金融を見て行く必要がある。
川島 博之
ベトナムVINグループ主席経済顧問
Jパートナーズ顧問
農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。
主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。
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