Vol.17 2026.2.25
ベトナムの都市鉄道網の整備は進むか

鉄道は都市をつくる。その資金負担は?
ホーチミン市都市鉄道1号線と周辺風景
(CC0/Wikimedia Commons)

ODA依存からの脱却-これからのベトナムの鉄道整備は?
 鉄道がつくられると駅周辺の開発が進む。駅前は商業地、少し離れたところは住宅街になり、学校や病院もつくられる。鉄道の整備は都市開発の中心に位置する。これは日本人なら誰もが知っていることだ。
 日本の都市周辺の鉄道整備は戦後急速に進んだ。戦前の鉄道整備は国が行ったが、戦後の整備は主に民間が担った。首都圏を例にとれば、東急、西武、東武、小田急、京急、京王などが大きな役割を果たした。
 これまでベトナムの都市鉄道網の整備はODAに依存してきた。ホーチミン市の地下鉄1号線は日本の援助によってつくられた。しかし一人当たりのGDPが5,000ドルを超えた今、インフラの整備をODAに頼ることはできない。これからはベトナム自身の力によって鉄道を整備する必要がある。
 鉄道などのインフラ整備は公共性が高いため、本来、税金で賄うべきものだろう。しかし鉄道の建設は多額の費用を要するので、どの国でも税金だけでは十分に整備しきれない。そこで民間会社が登場する。ベトナムも地下鉄の整備をビングループなど民間に委託しようとしている。その際に問題になるのが採算である。

鉄道整備と都市開発モデルの仕組み
 明治時代に日本が鉄道を整備した頃は、競合相手がいなかった。その結果として運賃を自由に設定することができたので、戦前の日本国有鉄道は優良企業であった。しかし戦後になると状況は大きく変わった。道路が整備されたことから、自動車、バイク、またバスが有力な移動手段になった。公道を走るバスは鉄道を建設し維持する必要がないので、運賃を安く設定することができる。自動車、バイク、バスが競合相手になったために、日本だけでなく多くの国で鉄道会社が利益を上げることは難しくなった。
 この時考え出されたのが沿線の開発との組み合わせだ。鉄道会社は駅周辺の土地を予め取得しておく。駅前に百貨店やスーパーマーケットをつくり、少し離れたところは住宅地にして販売する。駅ができれば土地の価格は大きく上がるので、住宅の売却益で鉄道建設費を賄うことができた。首都圏の私鉄各社はこのモデルによって大きな会社に成長することができた。
 この仕組みを模倣したのが中国である。中国では都市交通網の整備を行ったのは地方政府であるが、地方政府は先がけて駅周辺の土地を取得しておいた。中国では土地は公有制なので、地方政府は人々から強制的に土地を取り上げることができる。立退料は支払ったが、人々が土地を所有していたわけではないので、僅かしか払わなかった。この鉄道開発によって地方政府は莫大な資金を手にした。それが中国で急速に都市開発が進んだ理由である。

ベトナムの都市鉄道整備の課題
 現在ベトナム政府も鉄道網の整備に乗り出そうとしているが、そこには大きな問題が存在する。それは既に不動産バブルが生じてしまったことだ。このような状況では土地の取得に多額の費用が必要になる。また人々が値上がりを期待して土地を売り惜しむので、用地買収に時間がかかる。
 日本で都市鉄道網の整備が大きく進んだのは昭和30年代だった。その頃も地価は上昇していたが、人々は不動産がこれほどまでに高騰するとは考えていなかったので、鉄道会社はなんとか用地を確保することができた。
 だが既に不動産バブルが発生してしまったベトナムでは用地の買収は困難を極めるだろう。ベトナムは社会主義国家でありながら、その土地制度は日本に似ている。そのために中国のように強制的に都市住民や農民から土地を取り上げることはできない。
 このような状況にあるために政府が民間に地下鉄整備を委託しても、それが計画通りに進捗するとは思えない。ベトナムの都市鉄道網の整備は前途多難である。
川島 博之
ベトナムVINグループ主席経済顧問
Jパートナーズ顧問
農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。
主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。
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