Vol.11 2025.11.25
ベトナムの「高齢社会」到来に備えよ

アジアで進む急激な合計特殊出生率の低下は「高齢社会」の到来を早める
(出典:国連人口基金)

合計特殊出生率が示す「高齢社会」の到来
 ベトナムでは高齢化の進行に伴いデイケア・サービスの需要が急拡大している。現在65歳以上の人口は全人口の9.3%であるが、国連人口基金(UNFPA)によると、その割合は2036年に14%に達する。65歳以上の人口が14%を超えると「高齢社会」とされるから、ベトナムは2036年に「高齢社会」を迎えることになる。ただ筆者は「高齢社会」の訪れはもっと早まるのではないかと考えている。
 グラフは、タイ、マレーシア、ベトナムにおけるTFR(合計特殊出生率:一人の女性が一生涯に生む子供の数)の変遷を示している。1970年頃、タイ、マレーシア、ベトナムのTFRは6前後と高かった。しかしその後急速に低下してタイは1993年に、ベトナムは2004年に2.0を下回った。マレーシアはベトナムに遅れること12年、2016年に2.0を下回った。
 TFRが2.0を下回る状態が続くと、いずれ人口は減少し始める。タイのTFRはその後も減少し続けて2023年に1.21になった。一方、ベトナムは2.0を下回ったあたりから横ばいに転じた。なぜベトナムのTFRはマレーシアやタイのように低下し続けないのであろうか。

ベトナムの人口低下の理由
 一般に経済が発展するとTFRは低下する。ただ経済状況だけでなく宗教や文化の影響も受ける。マレーシアにはイスラム教徒が多いが、イスラム教の影響が強い国ではTFRはゆっくりと低下する。ベトナムは東南アジアの国でありながら、ハノイを中心とした北部は中華文明の影響を強く受けている。その中国のTFRは2023年に1.00にまで低下した。ちなみに同年の日本のTFRは1.21、韓国は0.72である。
 このようなことを考えると、ベトナムのTFRが2.0を少し下回ったところで下げ止まっていることは不思議である。これはベトナムが1988年から二人子政策を続けて来た結果ではないかと考えている。ベトナムの人々はもっと子供が欲しかったが、政府の方針に合わせて子供の数を2人に調節していた。そのような状況が今日まで続いていたと考えれば、TFRが2.0付近で横ばいになっていることを理解できる。
 ただ二人子政策は2025年6月に正式に廃止された。もはや政府が号令をかけなくてもTFRが低下する時代が訪れている。ベトナムの一人当たりGDPは4,717US$(2024)になり、TFRが急速に低下し始める水準に達している。既に2024年のホーチミン市のTFRは1.43にまで低下した。今後のこのような傾向は全国に波及しよう。

考慮すべき事業への影響
 国連人口基金が公表している中位推計は人口の将来予測としてよく用いられている。しかしながら国連の中位推計は過去の傾向をそのまま延長したものであり、それほど根拠のあるものではない。ベトナムは長らくTFRが横ばいであったが、国連人口基金はその傾向が続くとして中位推計を作っている。その結果、将来人口が過大になっている。
 国連人口基金は低位推計も公表している。グラフには低位推計に用いたTFRも示したが、筆者はベトナムの将来人口を考える際には、低位推計の方が適切ではないかと思っている。ちなみに2100年の人口は中位推計では9,195万人、低位推計では6,073万人である。
 少子化は世界的な傾向であり、特にアジアで急速に進行している。世界最大の人口を擁するインドの2023年のTFRは1.98になり、既に2.0を下回っている。
 少子化は日本だけの問題ではない。国連人口基金の中位推計に基づいた予測は人口を過大に予測しがちである。今後ベトナムの人口が低位推計で推移するなら、若年人口は早い時期から大きく減少する。ベトナムで事業展開を考える際には、若年人口が急激に減る「高齢社会」の早期到来の可能性を十分に考慮しておく必要がある。
川島 博之
ベトナムVINグループ主席経済顧問
Jパートナーズ顧問
農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。
主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。
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