Vol.10 2025.11.11
国会議員のグループ議論で問題視される不動産高騰

都市部から郊外に広がる住宅開発の中、庶民の足となっているのはオートバイ
(photo AC)

高騰する都市部の不動産価格
 ハノイやホーチミン市の不動産価格が高騰している。それに関して、国会議員らの経済、社会、予算状況等のグループ議論の中で、グエン・ラム・タイン議員は、「これまで多くの法律(住宅法、信用機関法、不動産事業法)を制定してきたにも関わらず、高騰を制御することができていない。それによって公務員でも住宅の購入は不可能になっており、この分野の法律の規定を見直す必要がある」と発言した。
 不動産価格の高騰は誰の目にも明らかである。ハノイやホーチミン市の新築マンションの価格は1㎡あたり50万円程度であり、70㎡の標準的なマンションの価格は約3,500万円になっている。
 一方平均的なサラリーマンの年収は50~100万円であり、世帯収入は共稼ぎでも100~200万円に留まることから、マンションを購入するには年収の17.5倍から35倍の費用が必要になる。この比率はバブル期の日本を上回る。サラリーマンが購入可能な住宅の価格は年収の5倍程度とされるから、普通の人が購入することは不可能な価格と言ってよい。ベトナムの不動産価格はバブル状態にある。

価格高騰の背景
 ベトナムには昭和の日本のように土地価格は絶対に下がらないとする土地神話が存在する。神話が存在する理由は、経済成長に伴い農村から都市へ人口の流入が続いているためである。昭和の日本においても農村から都市への人口の流入が続いていた。
 東京や大阪では都市圏が拡大した。鉄道など交通網の発達が都市圏の拡大を可能にした。現在東京では都心から30km離れたところでも都心に通勤することができる。
 一方、ベトナムでは都市の鉄道網整備が遅々として進んでいない。これまでにハノイで2路線、ホーチミン市で1路線が開通しただけである。資金不足もあるが、行政手続きの煩雑さや、それを改善しようとしない政治が鉄道網の整備を妨げている。
 ハノイとホーチミン市の交通手段はオートバイであり、これでは通勤圏は中心部から半径10km程度に留まる。通勤可能な住宅地の面積は中心からの距離の2乗に比例して増えるので、ハノイやホーチミン市の通勤圏は、単純計算で東京の1/9に留まることになる。
 人口は日本が1.2億人、ベトナムが1億人と大きな差はない。人口密度は同程度である。それ故に経済発展に伴い都市へ流入しようとする人口も同程度と考えてよい。だがハノイとホーチミン市の通勤圏の面積は東京の1/9でしかない。そのことが、庶民が購入することができないほどに住宅価格を高騰させてしまった。

目が離せない経済への影響
 今後の展開を予想することは難しい。根強い需要がある以上マンション価格は低下しないとの意見がある一方、庶民が購入できなければ価格はいずれ暴落するとの見方もある。
 近年オートバイを使って都心に行くのに1時間以上を要する郊外で大規模な住宅開発が行われている。いくら強い需要があると言っても、そんな郊外のマンションが高い値段で売れるとは思えない。デベロッパーが行き詰まる可能性もある。既にホーチミン市の大手不動産会社ノバランドが資金繰りに窮しているとの報道がある。
 中国と同様にベトナムでも不動産業は経済の中で重要な位置を占めている。その不調は金融システムを通じて経済全体に大きな影響を及ぼす。価格高騰について国会議員までもが問題にするようになった現在、ベトナムの不動産開発から目を離すことができなくなっている。
川島 博之
ベトナムVINグループ主席経済顧問
Jパートナーズ顧問
農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。
主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。
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