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Vol.9 | 2025.10.28 |
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| 古代から使われてきた水運は未来の輸送手段 |
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大河の流域に発展するベトナムの大都市(ホーチミン) |
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| ベトナムにとっての水運 |
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ベトナム北部は今年の8月から9月にかけて3つの台風に襲われた。特に8月29日に上陸した台風ブアロイではハノイ市内の道路が至る所で冠水し、交通が遮断されるなど大きな被害が出た。ハノイは紅河(ソンホン川)流域に発達した街であり、長い時間をかけて川沿いに堤を作り、街を洪水から守ってきた。市内にはホアンキエム湖などいくつもの池があるが、これは街が湿地帯を含む低地に作られたことを示している。今回冠水した地域の多くは、元は湿地帯だったと言われている。ベニスではないが、ハノイを水の都と言ってもよいくらいだ。 ベトナムは海に面しており南北に長い。北部の中心であるハノイ、また南部の中心であるホーチミン市は大河の流域に発展した。そんなベトナムでは水運は有力な運搬手段になり得る。古から水運は大量の荷物を運ぶことに適していた。 |
| 水運の可能性 |
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そんな水運は環境にやさしい運搬手段でもある。荷物1tを1km運ぶ際に排出されるCO2の量は、鉄道が約20g、船舶が約43g、トラックが約206g、飛行機が約600g、とされる。※ ※国土交通省、環境省が公表している輸送機関の環境負荷比較に関する統計データに基づく(編集部註) 鉄道が最も効率が良いが、船舶もトラック輸送に比べればCO2排出量が少ない。 ベトナムは4万2,000kmの河川(内1万7,000kmは運行可能)と3,260kmの海岸線を有し、水運は貨物輸送量の20%を担っている。ただ南北差があり、南部では水運は輸送貨物の30%を占めているが北部では2%に過ぎない。 ハノイを流れる紅河に大きな船着場はない。ハノイ周辺に船着場を整備すれば、ハイフォンやダナンなどから船でハノイへ物資を輸送することができる。 ブイ・ティエン・トウ岡山大学教授(元ベトナム内陸水運局長)によると、ベトナムの2024年の交通インフラへの投資額は270億ドルであり、GDPの5.7%を占めている。この割合は中国に次いで高い。そのインフラ投資の中で道路への投資が60%、鉄道が10%となっているが、内陸水運への投資額は2%〜2.5%に過ぎない。水運は軽視されてきた。 これまで道路整備に多くの投資を行って来たことは理解できる。陸路の整備は経済発展にとって必須とも言える。ただトラックによる輸送は多くのCO2を排出する。今後も輸送をトラックだけに頼ることは、環境問題を考える上では好ましくない。水運の活用を考えるべき時だろう。ベトナムの大都会ハノイ、ホーチミン市、ハイフォン、ダナン、カントーはいずれも大河川や海に面しており、水運を効率的に活用できる位置にある。水運の有効活用はベトナムがSDGsを目指す上で欠かせない。 |
| 未来を見据えた水運の活用を |
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ただベトナムにおいて水運は大きな話題になっていない。その一方で南北新幹線は大きな話題になっている。これは水運が古代からの伝統的な輸送手段であるのに対して、新幹線が近代を象徴する技術と考えられているからだろう。 しかし経済発展において新幹線は必ずしも有益ではない。中国は急速に新幹線網を整備し、その延長は日本の13倍にもなっているが、多くが赤字路線であり建設費を償還できる見込みが立っていない。インドネシアはジャカルタとバンドンを結ぶ新幹線の建設を中国に依頼した。そんなインドネシアも今その費用の返済に苦しんでいる。インドネシアの新幹線も赤字路線である。 古来から行われてきた水運は船足が遅いために非効率的な輸送手段と考えてしまいがちだが、トラック輸送に比べて燃費が良い。また港の整備は線路や道路を建設するほどの投資を必要としない。大河川と長い海岸線を有するベトナムはもっと水運を活用することを考えるべきであろう。水運を古臭い輸送手段と考えるべきではない。SDGsを考えた時、極めて未来的な輸送手段である。 |
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川島 博之 ベトナムVINグループ主席経済顧問 Jパートナーズ顧問 農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。 主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。 |
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