Vol.8 2025.10.14
ベトナム株式市場の今後を考える

写真はイメージです
(photo AC)

成長するベトナム株式市場
 グエン・バン・タン財務相は英株価指数算出会社FTSEに対してベトナムの株式市場をフロンティア市場から第2新興国市場に格上げして欲しいと要請している。現在、年内には格上げされるのではないかと囁かれており、これを受けて株式が高騰している。
※FTSEは各国市場を 「先進国市場」 「新興国市場」 「第2新興国市場」 「フロンティア市場」に分類
 VN指数(ベトナム株式指数)は1,600を超える水準で推移している。この4月、トランプ大統領がベトナムを含めた世界各国に対して一方的に関税を課すと言った際には1,100を割る水準にまで急落したが、米国との関税交渉が妥結すると急回復した。8月に入ってからは2022年1月3日に付けた過去の最高値1,526を上回る水準を維持している。
 現在ベトナムの株式市場には1,600社余りが上場しており、時価総額は3,200億ドルとGDPの70%程度に達している。 海外の機関投資家は社内規定でフロンティア市場への投資を禁じているケースが多いために、格上げになれば海外から60億ドルから80億ドル程度の資金が新たに流入するとされる。このことが強気相場を産んでいる。
 この10年ほどベトナムの株式市場は順調に成長してきた。2015年のVN指数は500程度だったが約3倍に成長した。その間、2020年3月にはコロナショックによる急落などを経験したが、大きな目で見れば順調な成長と言えよう。

中国株式市場との比較
 ここでベトナム株式市場の今後を占うために、中国の株式市場を見てみたい。それはどちらも政治は共産主義、経済は市場主義であるためだ。ここで問題になるのがこのような体制における情報管理のあり方である。共産主義における情報管理は米国、西欧、日本などとは大きく異なる。
 中国経済は驚異的な発展を遂げたが、株式市場はあまり成長しなかった。中国の代表的な株式指数である上海総合指数は過去30年に大きく2回高騰したが、その直後に急落している。1回目は2007年、2回目は2015年である。2007年に上海総合指数は5,858まで上昇したが、それがこれまで最高値になっている。
 昨年秋には2,800程度にまで低下した。その後中国共産党が経済対策を打ち出したことを受けて上昇に転じたが、それでも3,800程度に留まり2007年のピーク値を遥かに下回っている。
 一方で中国経済は成長し続けている。一人当たりGDPは2000年には969ドルに過ぎなかったが、2024年は13,303ドルになった。脅威の成長である。それにもかかわらず上海総合指数は乱高下して、あまり上昇していない。これをどのように考えれば良いのであろうか。

格付けアップだけでなく、望まれるのは信頼性
 その理由を解き明かすことは難しいが、米国に次ぐ経済大国になっても中国政府が発表するデータの信頼性が低いことが関係していると思っている。海外の投資家だけでなく中国国内の投資家も、中国の株式市場は透明性が低く信頼性に欠けると考えている。多くの投資家が株式市場をギャンブルの場と思っている。
 もう一つ中国の欠点は、政府の株式市場への介入である。不動産バブルの崩壊を受けて上海総合指数は大きく下落していたが、それを受けて政府が「大口投資家に株を売るな」などとの指令を出していると囁かれている。このようなことが噂される市場は成長しない。
 ベトナム株式市場は中国と同様の問題を抱えている。企業が公表するバランスシートなどは信頼性が低い。またインサイダー取引の噂が絶えない。そのような噂がどこまで本当か分からないが、このような状況を改善しない限り、株式市場が順調に成長することはないであろう。
 ベトナム政府は英国の格付け会社に格付けのアップを要請するだけでなく、上場している会社に正確な会計報告を常に行うように強く指導する必要がある。またインサイダー取引に対しても監視の目を強めるべきだ。ベトナム政府は中国を他山の石として、証券市場の成長戦略を考えて行く必要がある。
川島 博之
ベトナムVINグループ主席経済顧問
Jパートナーズ顧問
農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。
主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。
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