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Vol.6 | 2025.09.09 |
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| 不動産バブル回避のために注力すべきは、信頼できる証券市場の育成 |
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開発が続くホーチミンの高級マンション街 |
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| 先進国の入り口に立つベトナムの資産運用は? |
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現在ベトナム経済は順調に成長している。これからも年率7%の成長を続ければ、2035年頃には一人当たりGDPが1万ドルに近づく。それは先進国の入り口に立ったことを意味する。経済成長に伴い中産階級の人口は着実に増える。そんな彼らは金融資産をどのような形で運用するのであろうか。 個人は資産を現金、銀行預金、株式、保険、純金、そして不動産として所有する。保有形態は国によって違いがあり、米国では株式の割合高く、日本は預金の割合が高い。一方中国は不動産の割合が高い。 なぜ中国では不動産の割合が高いのであろうか。それは中国が、経済は資本主義、政治は共産主義という特殊な体制になっているからだ。中国人は現体制に全幅の信頼を寄せていない。心の底では大きな変化があるかも知れないと思っている。 株式会社は資本主義の象徴である。もし共産党の方針が変わって会社が再び国有化されることになれば、株式は価値を失う。そもそも株券はただの紙切れであり、今ではコンピューターの中の数字に過ぎない。一方不動産は実在し目にみえる。いくら共産党といえども、大量の不動産を簡単に接収することはできない。そう考えた中国人は資産を株ではなく不動産として所有することにした。 中国は証券市場を軽んじている。会社が発表する数字の信頼性が低く、またインサイダー取引も多いと噂されている。多くの中国人にとって株は博打と同じようなものである。その結果として中国の証券市場は陰が薄い。米国の株式時価総額はGDPの2倍程度になっており、日本も最近は1.5倍程度になっているが、中国はGDPの半分にも満たない。ベトナムの証券市場も中国と似たような状況にある。 |
| 潜む不動産バブル崩壊の危険 |
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日本は1990年以降にバブル処理とその後遺症に苦しんだ。現在中国もバブル崩壊に苦しんでいる。そしてその苦しみは日本の比ではないようだ。それは中国の中産階級がその資産の多くを不動産で運用していたためだ。中産階級は不動産価格が目減りしたことによって、ローン地獄に陥った。それが消費の停滞を招いている。 ドイモイ以降、ベトナムも中国と同様に経済は資本主義、政治は共産主義という体制になっている。そんなベトナムでもハノイやホーチミン市で不動産バブルが発生している。これまでのところベトナムの不動産バブルのプレイヤーは主に不動産業者であり、一般人は最終消費者としてしか参加していない。中国では自分が住む不動産の他に、投資目的でマンションを2戸、3戸と購入した人が多いが、現在のベトナムではそのような現象は起きていない。しかし今後年率7%の高い成長が続くと、ベトナムでも人々が中国と同様に資産を不動産で運用することを考えるようになる。 |
| 望まれる証券市場の整備 |
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それを防ぐ意味でも、ベトナムは証券市場を整備して人々の資金が株式に向かうようにしなければならない。個人の資金が誰も住まないマンションの購入に使われても、経済成長の役に立たない。それに対して資金が証券市場に流れ込めば、次の成長の糧になる。 証券市場もバブルを起こすが、流動性が高いために比較的短時間で処理することができる。それはリーマンショック後の米国を見れば明らかであろう。一方、株だけでなく不動産のバブルを伴った日本のバブルは容易に解決されなかった。それでも日本では自分が住む家以外の不動産を持つケースが少なかったために、2012年にアベノミクスが始まる頃にはバブル処理を終わらすことができた。一方、誰も住んでいないマンションが林立する中国は、不動産バブルをどのようにして処理すれば良いのか分からなくなっている。 ベトナムは中国の轍を踏むべきではない。現在トーラム政権は地下鉄や南北鉄道などのインフラ整備や海外からの工場誘致に力を入れているが、それと同時に証券市場を中心とした金融の信頼性を上げることに力を注ぐべきである。今後増加する中産階級の資金が証券市場に流れるようになってこそ、中国が嵌まった罠から抜け出すことができる。 |
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川島 博之 ベトナムVINグループ主席経済顧問 Jパートナーズ顧問 農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。 主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。 |
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