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Vol.2 | 2025.07.08 |
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| 一筋縄ではいかないベトナム原発建設の再開 |
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画像はイメージです |
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| 手放しで信用できない凍結していた原発建設の再開 |
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ブン・タン・ソン副首相は6月18日、(ベトナム南東部に位置し東は南シナ海に面する)ニントゥアンの原発プロジェクトに関する会議において、実際に検証済みの最良・最信頼・最安全の技術を採用するように指示したとされる。この発言は一般的なことを言っているに過ぎず、何を意図した発言なのかよく分からない。 発言が抽象的なのは、ベトナムにおける原発建設が強く政治性を帯びているためである。政治家は責任に繋がりかねない発言を避けて、一般的な発言を繰り返す。こんな調子で建設が計画通りに進むとは思えない。筆者がそう考えるのは、以下に書くような過去があるからだ。 ベトナムは2009年に原発の建設を国会で決めた。2022年までに発電量100万Kwの原発を2基有する発電所を2カ所に建設することにした。合計発電量は400万Kw。さらに2025年を目処に発電量を800万Kwに増やす案も採択した。その後2010年の国会では2030年までに100Kwと150万Kw級の原発を6カ所に建設することも決議した。 最初の原発はニントゥアン省に建設することとし、日本とロシアが2基ずつ建設することになっていた。しかし2017年になってその全てが凍結されてしまった。2023年にはニントゥアン省に出していた土地収容通知書も取り消されて、原発建設計画は全て白紙に戻った。 ベトナム政府は中止の理由についてなんの説明もしていない。そんな経緯があるために、ベトナム政府が原発を建設すると言っても、手放しで信じることはできなくなっている。まずは前回の計画がなぜ中止になったのか、その理由を考えてみる必要がある。 |
| 背景に透ける中国の思惑 |
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ここからは筆者の推測である。これが正しいかどうか確証はないが、筆者は原発の建設計画の再開にはグエン・フー・チョン書記長の死が関係していると思っている。チョン氏は2011年から書記長を務めていたが、彼が実権を握ったのは2016年からとされる。原発建設計画が凍結されたのが2017年。そして2024年に彼が死去すると、ベトナムは再び原発を建設すると言い出した。 なぜチョン書記長は原発建設計画を凍結したのであろうか。ベトナム政治は秘密のベールに覆われており、その理由を読み解くことは容易ではない。ヒントになるのはチョン書記長が中国の後押しによって、権力を維持していたと言われていたことだ。チョン書記長の政治思想は習近平主席に近いとされ、書記長の背後には習主席が存在した。 原発建設計画の中止には中国の思惑があったと考えざるを得ない。中国がベトナムの原発建設を中止させたいと思った理由として、 1) 建設がロシアと日本の企業によって行われること 2) 原発を稼働させると原爆の原料であるプルトニウムが生成されるが、それはベトナムの核武装につながりかねないこと この二つの理由で、中国はチョン書記長に原発建設を中止するように要請したのではないであろうか。 |
| 立ちはだかるリスク |
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もしこの推測が正しいとすれば、今回の原発建設計画も順調に進むとは思えない。今のところ中国はベトナムの原発建設計画に沈黙を守っているが、今後の情勢の変化によっては、再び中止させようと画策するかも知れないからだ。 もう一つ不安なことは、ベトナム政府が原発を建設するための資金に欠くことである。ベトナムは費用を他国や国際機関から借りることを考えているようだが、開発途上国援助に否定的なトランプ政権の出現によって、世界銀行やアジア開発銀行がすんなりお金を貸してくれる情勢ではなくなっている。一人あたりのGDPが約5,000ドルになったベトナムはODAに頼ることも難しい。 日本企業は代金がきちんと支払われるとの確信がなければ参画しにくい。中国との見えない関係によって、突如、計画が中止なるリスクに備える必要もある。ベトナムの原発建設は一筋縄ではいかない。 |
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川島 博之 ベトナムVINグループ主席経済顧問 Jパートナーズ顧問 農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。 主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』。 |
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